記憶の欠片

跳ねる鼓動

 時間は流れて、文化祭当日。

 校舎は朝から熱を帯びていて、どこからともなく甘い匂いと、楽しそうな声が混ざり合っている。

 一組の出し物は、メイド喫茶。

 慣れないフリルのエプロンに少し戸惑いながらも、なんとかシフトを終えた私は、ほっと息をついた。


「愛梨ちゃん、お疲れさま!」


 明日香ちゃんが笑顔で駆け寄ってくる。

 私たちはそのまま他のクラスの出し物を見に行くことにした。


「二組、お化け屋敷なんだって」


 その言葉に、胸が小さく跳ねる。

 ——二組。

 月城くんが、いるかもしれない。

 そう思っただけで、足取りがほんの少しだけ速くなる。

 廊下に出ると照明が落とされていて、不気味な音楽が低く流れていた。


「きゃー、雰囲気あるね」


 明日香ちゃんが小声で言う。

 そのときだった。


「いらっしゃい……」


 低く、聞き覚えのある声。

 視線を向けると、そこに立っていたのは三湊くんだった。

 黒い衣装に身を包んで、手には大きな鎌——もちろん作り物だけど。

 でも暗がりの中では、妙に様になっている。


「……三湊くん?」


 思わず名前を呼ぶと、彼は一瞬きょとんとしてから苦笑した。


「黒瀬か。似合ってるだろ、これ」


 鎌を軽く肩に担ぎ、どこか照れくさそうに笑う。


「案内役やらされてさ。ほら、入るなら今だぞ。後戻り不可」


 冗談めかした口調なのに、目はしっかり仕事モードで。

 暗い廊下の先。

 きしむ音。

 遠くで誰かの悲鳴。


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