記憶の欠片
「……てかさ」


 三湊くんが、ふと視線を落としてから、もう一度私を見る。

 フリルのエプロン。

 リボンのついたカチューシャ。

 普段とはまるで違う格好。

 一瞬、言うか迷ったみたいに間を置いてから、小さく息を吸って。


「……可愛いじゃん」


 ぽつり。

 あまりにも自然に言われて、一拍遅れて意味が追いつく。


「……っ!」


 一気に顔が熱くなるのが分かった。


「な、なに言って——」


 言い返そうとした、その横で。


「え〜〜〜??」


 明日香ちゃんが、にやにやと口角を上げる。


「今の聞いた?三湊、“ 可愛い”って言ったよね?」


 わざとらしく私の方を見て、次に三湊くんの方を見る。


「愛梨ちゃんにだけ、だよね?」


「おい、そういう言い方すんなって」


 三湊くんは少し慌てた様子で視線を逸らし、首の後ろをかいた。

 明日香ちゃんは楽しそうに笑って、私の肩をつつく。


「よかったね、愛梨ちゃん。メイド服、ちゃんと効いてるみたい」


「もう……明日香ちゃん……」


 恥ずかしさで、思わずエプロンの端を握りしめる。

 三湊くんはそれ以上何も言わなかったけど、鎌を持つ手がほんの少しだけ落ち着きを失っていた。

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