記憶の欠片
店を出ると、太陽はまだ高くて、砂浜は白く眩しい。
波の音に紛れて、さっき聞いた名前が、まだ頭の中で残っている。
月城 慧。
そして、今から向かう先には、何かを知っていそうな稲くんがいる。
この夏は、思っていたよりずっと人と人との“繋がり”に満ちている気がした。
強い日差しが一気に私を照らす。
思わず目を細める。肌に突き刺さるような光と、焼けた砂の匂い。
夏の海は、容赦がない。
少し離れたところ——テトラポットの近くに、稲くんはいた。
波打ち際からは距離があるのに、砕けた波の音がここまで届いている。
彼はテトラポットに腰を下ろし、海の方を向いたまま動かない。
「……遅れてごめんね」
そう声をかけると、稲くんは小さく肩を揺らして振り向いた。
「いえ……大丈夫です」
控えめで、少し震える声。
でも、その目線はしっかりと私を捉えている。
思った以上に、まっすぐで。
少し怯えたようで、でも強い光を宿している目だった。
無造作にかきあげた髪。
綺麗な茶髪に、ところどころ入ったクリーム色のメッシュ。
全体の雰囲気が、どこか見覚えがある。
……献くん。
似ている、というより。
一瞬、そっくりだと思ってしまった自分に戸惑う。
私が何か言う前に、稲くんは視線を落としたまま、唐突に口を開いた。
「……やっぱり」
一拍置いて、はっきりと。
「記憶……失ってるんですよね」
心臓が、どくんと鳴った。
どうして。
どうして、この人がそれを知っているの。
潮風が強く吹いて、私たちの間を、不自然な沈黙が通り抜けた。
「……俺のこと、覚えてないですか」
そう言って、稲くんは初めて、はっきりと私の方を見た。
右手を伸ばして、かきあげられた髪を片手でクシャッと崩す。
太陽の光を遮るその長い前髪。
胸の奥をざわつかせる懐かしい雰囲気。
「こんな髪型で、名前が稲っていう、年下の男子」
ぽつり、と独り言みたいに呟く。
その瞬間——頭の奥で、何かが弾けた。
波の音に紛れて、さっき聞いた名前が、まだ頭の中で残っている。
月城 慧。
そして、今から向かう先には、何かを知っていそうな稲くんがいる。
この夏は、思っていたよりずっと人と人との“繋がり”に満ちている気がした。
強い日差しが一気に私を照らす。
思わず目を細める。肌に突き刺さるような光と、焼けた砂の匂い。
夏の海は、容赦がない。
少し離れたところ——テトラポットの近くに、稲くんはいた。
波打ち際からは距離があるのに、砕けた波の音がここまで届いている。
彼はテトラポットに腰を下ろし、海の方を向いたまま動かない。
「……遅れてごめんね」
そう声をかけると、稲くんは小さく肩を揺らして振り向いた。
「いえ……大丈夫です」
控えめで、少し震える声。
でも、その目線はしっかりと私を捉えている。
思った以上に、まっすぐで。
少し怯えたようで、でも強い光を宿している目だった。
無造作にかきあげた髪。
綺麗な茶髪に、ところどころ入ったクリーム色のメッシュ。
全体の雰囲気が、どこか見覚えがある。
……献くん。
似ている、というより。
一瞬、そっくりだと思ってしまった自分に戸惑う。
私が何か言う前に、稲くんは視線を落としたまま、唐突に口を開いた。
「……やっぱり」
一拍置いて、はっきりと。
「記憶……失ってるんですよね」
心臓が、どくんと鳴った。
どうして。
どうして、この人がそれを知っているの。
潮風が強く吹いて、私たちの間を、不自然な沈黙が通り抜けた。
「……俺のこと、覚えてないですか」
そう言って、稲くんは初めて、はっきりと私の方を見た。
右手を伸ばして、かきあげられた髪を片手でクシャッと崩す。
太陽の光を遮るその長い前髪。
胸の奥をざわつかせる懐かしい雰囲気。
「こんな髪型で、名前が稲っていう、年下の男子」
ぽつり、と独り言みたいに呟く。
その瞬間——頭の奥で、何かが弾けた。