記憶の欠片 Original

〈記憶の欠片 輝く稲穂〉

 ——中学二年生の春。


 放課後の音楽室は、いつも少しだけひんやりしていて、夕方の光が窓から斜めに差し込んでいた。


 私が扉を開けると、そこには決まって先客がいた。


 ギターを抱えた、大人しい少年。


 壁際の椅子に座って、黙々と弦を爪弾いている。


 ……稲くんだ。


 最初は、声をかけるのにも勇気がいった。


 目を合わせるとすぐに逸らされて、質問をすると、少し考えてから短く答える。


 人見知りなんだな、ってすぐに分かった。


 でも。


 何日も顔を合わせて、同じ空間で同じ時間を過ごすうちに少しずつ、彼の方から話しかけてくれるようになった。

< 52 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop