記憶の欠片
 一気に、視界が揺れた。

 突然、頭の奥に鋭い痛みが走った。

 こめかみの奥がずきずきと痛み出して、立っているのがやっとになる。

 視界がぐらりと歪む。

 太陽の光が滲んで、白く弾ける。

 音楽室に響くギターの音色。

 軽快に音楽を奏でる細くて長い指。

 ——記憶が、一気に押し寄せてくる。


「……っ」


 息が詰まる。

 足元の感覚が抜けて、砂の感触が遠のいていく。

 バランスを失い、膝が崩れた。


「先輩?!」


 稲くんの声が聞こえた気がしたけど、それより先に世界が暗転する。

 身体が横に傾いて、重力に引かれるまま倒れ込む。

 ——落ちる。

 その瞬間、腕を掴まれた感触があった。


「黒瀬先輩……!」


 必死な声。

 けれど支えきれず、私の意識はふっと遠のく。

 波の音だけが、やけに大きく耳に残って——そこで、すべてが途切れた。


 次に浮かび上がってきたのは、中学の教室で微笑む私と、「先輩」と呼びながら嬉しそうに問題を解く稲くんの姿だった。

 忘れていた時間。

 確かに存在していた、彼との日々。

 私は、またひとつ、過去を思い出した。
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