記憶の欠片

〈記憶の欠片 輝く稲穂〉

 ——中学二年生の春。

 放課後の音楽室は、いつも少しだけひんやりしていて、夕方の光が窓から斜めに差し込んでいた。

 私が扉を開けると、そこには決まって先客がいた。

 ギターを抱えた、大人しい少年。

 壁際の椅子に座って、黙々と弦を爪弾いている。

 ……稲くんだ。

 最初は、声をかけるのにも勇気がいった。

 目を合わせるとすぐに逸らされて、質問をすると、少し考えてから短く答える。

 人見知りなんだな、ってすぐに分かった。

 でも。

 何日も顔を合わせて、同じ空間で同じ時間を過ごすうちに少しずつ、彼の方から話しかけてくれるようになった。

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