記憶の欠片
嵐を超えた季節
稲side
——倒れる、と思った。
海の眩しさの中で、先輩の体がふっと揺れて次の瞬間には、考えるより先に体が動いていた。
「……っ」
慌てて腕を伸ばして、受け止める。
軽い。思っていたよりずっと。
腕の中で、先輩の体温がはっきり伝わってきて、心臓が嫌な音を立てた。
やっぱり……。
以前、バンドメンバーであり、クラスメイトでもある怜桜から聞いた話が、頭をよぎる。
姉の愛梨が入院したこと。
しばらく意識がなかったこと。
そしてさっき。俺を見たときの、あの顔。
——初めまして、って顔だった。
ああ、そうか。
もしかしたらじゃない。
きっと、記憶を失ってる。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
じゃあ、どうすればいい?
どうしたら、思い出してもらえる?
……考えて、考えて、一つの答えに辿り着く。
そうだ。
先輩にとって印象に残っている俺を見せればいい。
長い間、一緒に過ごした俺。
音楽室にいつもいた前髪が長くて、暗くて、話すのが苦手だった頃の俺。
あの頃の俺を。
……いや。
暗い性格なのは、今も変わってない。
先輩が入院してすぐ、俺はバンドの活動を始めた。
夢だったはずなのに、周りを見渡せば、才能の塊みたいな人ばかりで。
音も、センスも、存在感も。
全部が眩しくて、気づけば、また自信を失っていた。
先輩からアドバイスをもらう前に、全部、逆戻りだ。
頑張って、変わったつもりで、でも本当はどこにも辿り着いていなくて。
気づけば何者にもなれない、中途半端なやつになっていた。
こんな自分のことがどうしても、好きになれない。
……大嫌いだ。
——それでも。
腕の中にいる先輩の存在だけが、今の俺をぎりぎり繋ぎ止めていた。
思い出してほしい。
今の俺じゃなくていい。
格好悪くて、未完成な俺でもいいから。
——先輩の記憶の中に、もう一度、戻りたいだけなんだ。
——倒れる、と思った。
海の眩しさの中で、先輩の体がふっと揺れて次の瞬間には、考えるより先に体が動いていた。
「……っ」
慌てて腕を伸ばして、受け止める。
軽い。思っていたよりずっと。
腕の中で、先輩の体温がはっきり伝わってきて、心臓が嫌な音を立てた。
やっぱり……。
以前、バンドメンバーであり、クラスメイトでもある怜桜から聞いた話が、頭をよぎる。
姉の愛梨が入院したこと。
しばらく意識がなかったこと。
そしてさっき。俺を見たときの、あの顔。
——初めまして、って顔だった。
ああ、そうか。
もしかしたらじゃない。
きっと、記憶を失ってる。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
じゃあ、どうすればいい?
どうしたら、思い出してもらえる?
……考えて、考えて、一つの答えに辿り着く。
そうだ。
先輩にとって印象に残っている俺を見せればいい。
長い間、一緒に過ごした俺。
音楽室にいつもいた前髪が長くて、暗くて、話すのが苦手だった頃の俺。
あの頃の俺を。
……いや。
暗い性格なのは、今も変わってない。
先輩が入院してすぐ、俺はバンドの活動を始めた。
夢だったはずなのに、周りを見渡せば、才能の塊みたいな人ばかりで。
音も、センスも、存在感も。
全部が眩しくて、気づけば、また自信を失っていた。
先輩からアドバイスをもらう前に、全部、逆戻りだ。
頑張って、変わったつもりで、でも本当はどこにも辿り着いていなくて。
気づけば何者にもなれない、中途半端なやつになっていた。
こんな自分のことがどうしても、好きになれない。
……大嫌いだ。
——それでも。
腕の中にいる先輩の存在だけが、今の俺をぎりぎり繋ぎ止めていた。
思い出してほしい。
今の俺じゃなくていい。
格好悪くて、未完成な俺でもいいから。
——先輩の記憶の中に、もう一度、戻りたいだけなんだ。