記憶の欠片
それから数日が経って、いじめの件は表向きには収束した。
関わった生徒の処分も決まり、先生たちの対応も一段落した。
でも——
愛梨ちゃんは、学校に来なかった。
一日、また一日。
気づけば一週間が過ぎていた。
胸の奥に、じわじわと広がる嫌な予感。
私は耐えきれなくなって、担任の先生のもとへ向かった。
「先生……黒瀬さん、今どうなってますか」
先生は一瞬、言葉を探すように視線を伏せた。
その沈黙だけで、もう答えは分かってしまいそうだった。
「……意識が戻っていないんだ」
「え……?」
「昏睡状態が続いている」
その言葉が、頭の中でうまく意味を結ばない。
昏睡?
意識が、戻らない?
世界の音が、急に遠のいた気がした。
先生は、少し言葉を探すようにして言った。
まるで、私を真実から遠ざけるみたいに。
「首を……強く打ってしまったらしくてね」
首には大切な神経が集まっている、と続ける言葉が、刃みたいに胸に刺さる。
——そんなところを、あの時。
ぐっと奥歯を噛みしめる。
もし、私がもっと早く気づいていれば。
もし、あの日、迷わずそばにいれば。
「……私の、せいだ」
喉から零れた声は、かすれていた。
先生は何も言わなかった。
それが、余計につらかった。
教室へ戻る廊下は、やけに長く感じた。
窓の外では、紅葉が静かに揺れている。
あんなに綺麗なのに、今の私には何の色もない。
愛梨ちゃん、私、ちゃんと向き合うって決めたのに。
謝るって、守るって、誓ったのに。
——まだ、何も伝えられていない。
もしこのまま、目を覚まさなかったら?
その考えが浮かんだ瞬間、胸がぎゅっと潰れそうになる。
「……お願い」
誰に向けた言葉なのかも分からないまま、私は小さく呟いた。
「目、覚ましてよ……」
次に会う時は、必ず、ちゃんと謝るから。
今度こそ、逃げないから。
だから——
どうか、生きていて。
関わった生徒の処分も決まり、先生たちの対応も一段落した。
でも——
愛梨ちゃんは、学校に来なかった。
一日、また一日。
気づけば一週間が過ぎていた。
胸の奥に、じわじわと広がる嫌な予感。
私は耐えきれなくなって、担任の先生のもとへ向かった。
「先生……黒瀬さん、今どうなってますか」
先生は一瞬、言葉を探すように視線を伏せた。
その沈黙だけで、もう答えは分かってしまいそうだった。
「……意識が戻っていないんだ」
「え……?」
「昏睡状態が続いている」
その言葉が、頭の中でうまく意味を結ばない。
昏睡?
意識が、戻らない?
世界の音が、急に遠のいた気がした。
先生は、少し言葉を探すようにして言った。
まるで、私を真実から遠ざけるみたいに。
「首を……強く打ってしまったらしくてね」
首には大切な神経が集まっている、と続ける言葉が、刃みたいに胸に刺さる。
——そんなところを、あの時。
ぐっと奥歯を噛みしめる。
もし、私がもっと早く気づいていれば。
もし、あの日、迷わずそばにいれば。
「……私の、せいだ」
喉から零れた声は、かすれていた。
先生は何も言わなかった。
それが、余計につらかった。
教室へ戻る廊下は、やけに長く感じた。
窓の外では、紅葉が静かに揺れている。
あんなに綺麗なのに、今の私には何の色もない。
愛梨ちゃん、私、ちゃんと向き合うって決めたのに。
謝るって、守るって、誓ったのに。
——まだ、何も伝えられていない。
もしこのまま、目を覚まさなかったら?
その考えが浮かんだ瞬間、胸がぎゅっと潰れそうになる。
「……お願い」
誰に向けた言葉なのかも分からないまま、私は小さく呟いた。
「目、覚ましてよ……」
次に会う時は、必ず、ちゃんと謝るから。
今度こそ、逃げないから。
だから——
どうか、生きていて。