記憶の欠片
お昼を食べ終え、ざわついていた会場の空気が、少しずつ張りつめていく。
後半戦、色別対抗リレー。
トラックの周りに各色の選手が集まり、観客席からは期待と興奮が混じった声が降り注いでいた。
私は走順をもう一度頭の中で確認する。
——私の次が、アンカーの献くん。
だから、ここで差を広げておかないといけない。
「足、引っ張りたくないな……」
そう思うほど、太ももに力が入り、心臓の音がはっきり聞こえてくる。
柔軟をしながら深呼吸していると、横から声がした。
「たのしみだね、リレー」
顔を上げると、献くんがいつもの少し眠そうな笑顔で立っている。
でも、その目はいつもよりずっと真剣だった。
「うん……でも、ちょっと緊張するかも」
正直な気持ちが、ぽろっと零れる。
不安で視線を落とした、その瞬間。
——ふいに、顎に触れる感触。
献くんの指が、そっと私の顎をすくい上げた。
くいっと視線が引き上げられて、強制的に目が合う。
「大丈夫」
低くて、落ち着いた声。
普段のおどけた調子とはまるで違う。
「絶対、勝てるよ」
胸が、ドクンと跳ねる。
そのまま、彼は少しだけ距離を詰めてきて——
「だから……」
一瞬、周りの音が遠ざかった気がした。
「俺だけを見てて?」
その言葉に、思わず息を呑む。
からかってる? それとも本気?
でも、彼の目は冗談を言う時のそれじゃなかった。
アンカーとしての覚悟。
仲間を背負う責任。
そして、私に向けられたまっすぐな視線。
「……うん」
小さく、でもはっきり頷く。
「一位取れたら…大事な話があるんだ」
「…え…?」
「一位、絶対にとるから」
そう言うと献くんは手を振って、アンカーの位置へ戻っていった。
残された私は、胸の高鳴りを抑えながら、スタートラインへ向かう。
——このバトン、絶対に一番で渡す。
今はただ、それだけを考えていよう。
ホイッスルが鳴る直前、私はもう一度だけ、遠くにいる献くんを見た。
彼は気づいたように、静かに頷いた。
後半戦、色別対抗リレー。
トラックの周りに各色の選手が集まり、観客席からは期待と興奮が混じった声が降り注いでいた。
私は走順をもう一度頭の中で確認する。
——私の次が、アンカーの献くん。
だから、ここで差を広げておかないといけない。
「足、引っ張りたくないな……」
そう思うほど、太ももに力が入り、心臓の音がはっきり聞こえてくる。
柔軟をしながら深呼吸していると、横から声がした。
「たのしみだね、リレー」
顔を上げると、献くんがいつもの少し眠そうな笑顔で立っている。
でも、その目はいつもよりずっと真剣だった。
「うん……でも、ちょっと緊張するかも」
正直な気持ちが、ぽろっと零れる。
不安で視線を落とした、その瞬間。
——ふいに、顎に触れる感触。
献くんの指が、そっと私の顎をすくい上げた。
くいっと視線が引き上げられて、強制的に目が合う。
「大丈夫」
低くて、落ち着いた声。
普段のおどけた調子とはまるで違う。
「絶対、勝てるよ」
胸が、ドクンと跳ねる。
そのまま、彼は少しだけ距離を詰めてきて——
「だから……」
一瞬、周りの音が遠ざかった気がした。
「俺だけを見てて?」
その言葉に、思わず息を呑む。
からかってる? それとも本気?
でも、彼の目は冗談を言う時のそれじゃなかった。
アンカーとしての覚悟。
仲間を背負う責任。
そして、私に向けられたまっすぐな視線。
「……うん」
小さく、でもはっきり頷く。
「一位取れたら…大事な話があるんだ」
「…え…?」
「一位、絶対にとるから」
そう言うと献くんは手を振って、アンカーの位置へ戻っていった。
残された私は、胸の高鳴りを抑えながら、スタートラインへ向かう。
——このバトン、絶対に一番で渡す。
今はただ、それだけを考えていよう。
ホイッスルが鳴る直前、私はもう一度だけ、遠くにいる献くんを見た。
彼は気づいたように、静かに頷いた。