初恋
なぜだかふと、中学時代のことを思い出した。
まだ一人に一台のスマホどころか、携帯電話、今で言うガラケーさえ珍しかった時代のことだ。
気が付くと、一人の女子のまっすぐに伸びた背筋を見ていた。
中一から二年続けて同じクラスだから、もちろん名前は知っている。下駄箱で会えば挨拶くらいはする。
当時、香坂万里にとってその女子、坂木一花はその程度の存在だった。
友達ではない、ただのクラスメイト。
万里たちが教室で馬鹿笑いしていても、一花がその集団に混ざることは一度もなく、ひっそりと気配を消しているような女子。でも嫌な顔を見せるようなことは全然なくて、ほとんどの場合、穏やかに微笑んでいるイメージだ。
誰だったか、一花の髪で遊びながら、「さらさらで綺麗な黒髪なのに、ショートボブなんてもったいない」と言っているのが聞こえたことがある。
(ほんとだよな)
つい心の中で頷き、そんな自分に首を傾げた。
女子のロングヘア――というか、ポニーテールは大好きだ。友達と半分本気で、校則で女子は全員ポニーテールにすればいいなんて言っていたこともあるくらい。
でも心の中に浮かんだロングヘアの一花は、ただまっすぐな髪をおろしている。きっとすごく似合うだろう。
姿勢がよくて物静かなせいか、白いワンピースと日傘なんかが似合いそうな気がした。
特別美人というわけではないけれど、ちょっと可愛い。そんな女の子なのだ。
しかし彼女は髪を肩より長く伸ばしたことがない。
「んー、でも、髪を伸ばすの苦手なんだよね。ドライヤーとか時間がかかるし」
一花の答えに、万里の脳裏にいつもシャンプーがどうのブローがどうのとうるさい姉の顔が浮かぶ。
なるほど、たしかにあれは面倒くさそうだ、と納得だ。
それでもなんとなく、ロングヘアの一花も見てみたいものだと思った。その時は特に意味はなかったから、すぐに忘れてしまったけれど。
そのことをふと思い出したのは、春休みに入ってすぐのことだ。
駅前のベンチに一人で座る一花を偶然見かけた。
まだ一人に一台のスマホどころか、携帯電話、今で言うガラケーさえ珍しかった時代のことだ。
気が付くと、一人の女子のまっすぐに伸びた背筋を見ていた。
中一から二年続けて同じクラスだから、もちろん名前は知っている。下駄箱で会えば挨拶くらいはする。
当時、香坂万里にとってその女子、坂木一花はその程度の存在だった。
友達ではない、ただのクラスメイト。
万里たちが教室で馬鹿笑いしていても、一花がその集団に混ざることは一度もなく、ひっそりと気配を消しているような女子。でも嫌な顔を見せるようなことは全然なくて、ほとんどの場合、穏やかに微笑んでいるイメージだ。
誰だったか、一花の髪で遊びながら、「さらさらで綺麗な黒髪なのに、ショートボブなんてもったいない」と言っているのが聞こえたことがある。
(ほんとだよな)
つい心の中で頷き、そんな自分に首を傾げた。
女子のロングヘア――というか、ポニーテールは大好きだ。友達と半分本気で、校則で女子は全員ポニーテールにすればいいなんて言っていたこともあるくらい。
でも心の中に浮かんだロングヘアの一花は、ただまっすぐな髪をおろしている。きっとすごく似合うだろう。
姿勢がよくて物静かなせいか、白いワンピースと日傘なんかが似合いそうな気がした。
特別美人というわけではないけれど、ちょっと可愛い。そんな女の子なのだ。
しかし彼女は髪を肩より長く伸ばしたことがない。
「んー、でも、髪を伸ばすの苦手なんだよね。ドライヤーとか時間がかかるし」
一花の答えに、万里の脳裏にいつもシャンプーがどうのブローがどうのとうるさい姉の顔が浮かぶ。
なるほど、たしかにあれは面倒くさそうだ、と納得だ。
それでもなんとなく、ロングヘアの一花も見てみたいものだと思った。その時は特に意味はなかったから、すぐに忘れてしまったけれど。
そのことをふと思い出したのは、春休みに入ってすぐのことだ。
駅前のベンチに一人で座る一花を偶然見かけた。
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