初恋
 膝の上で両手を揃え、相変わらず姿勢がいいのがなんとなく面白くて、万里は自転車から降りて急いで駐輪コーナーに停めた。当時駅横の駐輪場は無料で停められたのだ。

「坂木、どっか行くの?」
「えっ? あ、香坂くん」

 驚かさないよう、少し離れたところから声をかけると、少しキョロキョロした一花が万里に気づき、フワッと笑う。
 クラスで唯一苗字にくん付けで呼んでくれる一花だが、今日はその呼び方に妙にドキッとしたのを隠すよう、万里はニカッと笑った。
 外で偶然誰かに会えるのは楽しい。私服だとなおさら特別感がある。
 このドキドキはそういうことだなんて思いながら、万里は一花の隣に座った。

 電車の時間までかなりあるせいか、駅前に人は少ない。いなかだから本数が少ないのだ。
 そんな中途半端な時間にいるということは、だれかの迎えを待っているということかと思い、そう尋ねてみるも、一花は少し困ったように微笑んだ。

「電車の時間、間違えて早くつきすぎちゃった」
「待ち合わせか何か?」
「ううん。一人だから、急いでないんだけどね。思いつきで出てきちゃったから」
「ふーん」

 なら予定はないのかと思っていると、一花が不思議そうな顔をした。

「香坂くんは? 何処かに行く予定だったんじゃないの?」

 学校では大勢でいるから、万里が一人でいるのが珍しいということらしい。

「いや、暇だからゲーセンか本屋でも覗こうかと思ってただけ。あんまり約束とかしないんだよね」
「そうなの?」
「うん。電話とか苦手だからさ、こういう休みの時だと、明日何処かでみたいな約束しないんだ」
「へえ、意外」

 本気で意外だったらしい。
 目を丸くする一花に、万里は少し苦笑した。

「顔が見えない状態で話すの苦手なんだよ。ま、そもそもうちの電話は姉貴専用と化してるし?」

 ちょっとおどけて見せれば、クスクス笑ってくれる一花が可愛くて、胸のあたりがキューッと痛くなった気がする。

 こんな風に二人で喋るなんて初めてだけど、なんだか自然な感じがして嬉しくなった。

「香坂くんのお姉ちゃん、可愛いよね」
「げっ、本気で言ってる?」
「え? うん」

 一花のほうが千倍は可愛いと言いたくなったけれど、さすがにキモいと思われそうなので飲み込んでおく。

 万里の姉は、たしかに見た目だけなら可愛いのだ。

 しかし、次いで一花に、

「香坂くんと、よく似てるなって思ってた」

 なんて言われてしまうと撃沈する。
< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop