初恋
 父親の仕事で海外に引っ越したのだそうだ。ショックだった。

 当時は、今みたいにメールのやり取りなんてこともできない。それも海外なんて、二度と会えないと思った。

 まだ恋にはなっていなかった。
 ただ特別だった。


 その後何度か恋をしたけれど、やたら英語の成績を上げたのは、ひそかな下心があったせいかもしれない。

 でもその下心は、十二年後に浮かばれる。

 会社で再会した一花は、想像よりも綺麗になっていた。憧れていた背中はそのままで、恋に落ちるなんてあっという間だったから、必死で捕まえに行った。


「お父さんて、ほんと、お母さんのこと大好きだよね」

 今日も娘たちが呆れたようにそんなことを言う。

「内緒だぞ」

 そう嘯く万里に、娘たちが「はいはい、バレバレだけどね」と頷くのもいつものことだ。

 妻はそんな娘たちに、
「お父さんみたいな人を見つけなさい」
と言ってくれる。

「お父さんはね、お母さんの初恋なのよ」

 リビングでうたた寝をしているとき、妻子の楽しそうな女同士の内緒話というやつが聞こえてしまったけれど、万里は今日も寝たふりをしておことにした。
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
このお話を書きたくて執筆を再開したものの、いぶき視点で書くか瑛太視点で書くかずっと悩んでいました。 結局、40歳女性の恋を描く(不倫不可)というなろうの個人企画に参加するにあたって母親視点で書くことになったのですが、今読み返しても心臓がぎゅっとなる作品です。 20歳のいぶき視点は、お母さんである忍視点とはまた違うと思います。 もしこちらから先に読んでしまった方は、本編のほうもぜひどうぞ。 「いつか、かぐや姫のお母さんだった話をしましょうか」 https://www.berrys-cafe.jp/book/n1768875 つづきはいずれ
とある仙女の回顧録

総文字数/4,273

恋愛(純愛)5ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
表紙絵は天音AKIRA様に描いて頂きました
次の電話

総文字数/698

恋愛(純愛)1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
イメージ的には、深夜のFMラジオで曲と曲の間に流れる短い朗読劇。 まだ誰もが携帯を持っているのが当たり前じゃなかった20世紀末。 恋人より友達優先の彼氏を持った女の子のお話です。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop