桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
全員がアリスの異変に気付き、声を上げてアリスを呼ぶ。肩を叩いたり、頬を軽く叩いたりしても起きる様子はない。息はしているものの呼吸は浅く、ほとんど虫の息だ。
「夢魔! アリスの意識はどうなっている!」
帽子屋は声をあげると、壁にかけてあった鏡から、苦い顔をした夢魔が映る。その表情で、状況が芳しくないことを悟った。
「アリスの夢に入ろうとしているんだけど、ダメだよ、入れない! 強い意志が働いているのか、拒否される!」
「くそ、一体何があったんだ、チェシャ猫、説明しろ!」
「ウサギの穴に入る前は怪我も何もないよ、僕にだって分からない」
ウサギの穴に入る前のアリスは元気そうだったし、体調の面で変わった様子はなかった。繋いだ手がひんやりと冷え始めたのは、ウサギの穴に入ってからだ。
おそらく何らかの強い意志のせいで、夢から出られないのかもしれない。アリスの記憶か、昔の記憶か、暗黒の魔女の企みか。
最悪の想像に、冷や汗が出る。アリスが危険に晒された時も動揺したけれど、今の状況は理由がわからないだけに、恐ろしい。
「大丈夫、帰ってくル」
「君は?」
窓際に、いつの間にか銀色の猫がいる。ダイナだ。
「君、ダイナかい?」
「ソウ。ダイナ。主は今、夢、ミテル。主の、記憶と魔法を受け取っている、邪魔したら、ダメ。でも、邪魔が、くる」
耳に神経を尖らせてみる。アリスのことでいっぱいだった感覚は拡散して、外の様子を的確に捉えた。更に視覚が、現状を強く叩きつけてくる。
地面が壊れ、風景が壊れていく。人々が、世界が、悲鳴をあげている。その中で、猫の耳が捉えたかすかな銃声。更に、金属音と多くの足音が聞こえる。外の様子を伺おうと耳をすませば、館の柵が荒々しく音を立てた。
館の異変に気付いた帽子屋がすばやく窓へと駆ける。
「三月ウサギ!」
「ねぇ、あっち! 兵士の群れの中! 黒ウサギがいるよっ!」
メアリーがぴょんぴょんと飛び上がりながら窓の外を指差す。最悪なことに、黒ウサギが魔物と乱闘しているらしい。
帽子屋は無言で荒々しく部屋を出る。眠りネズミも三月ウサギと黒ウサギ、二人の登場に戸惑いを見せた。
「ちっ、こんな時に!」
アリスをチラリと見ると、眠りネズミも帽子屋の後を追って部屋を出ていった。
「とにかく、黒ウサギを救出しなきゃ!」
夢魔の叫びに、メアリーがこくんと頷く。
「私が兵士の相手をするねっ!」
メアリーは窓を開けると、そこから飛び降りた。
メアリーの常人の域を越える身のこなしは、動物の僕ら以上の身体能力かもしれない。今はそれについて考察するのは無駄だ。
「じゃあ、僕も行ってくる!」
ビルもメアリーを追いかけていくように、窓からでていく。すっかり取り残された僕は、目の覚まさないアリスの手を握る。アリスの手がこんなにも冷たいなんて初めてで、ダイナの言葉を思い出しても不安に駆られた。
「アリス」
君は今、どんな夢を見ているんだい?
僕は毎日、君の夢をみた。幼い頃、あの雨の日。傘を差して雨を遮ったあの日からずっと。君に出会って、楽しくて、愛しい、あの頃の記憶。
どすん、と館が揺れる。その衝撃で棚の本が床へ落下し、シャンデリアがユラユラと揺れた。
世界の崩壊は、もう目の前まで来ている。逃げ場なんてどこにもない。逃げ惑う人々を兵士が安全な方へ誘導をしているようだけど、アリスが目を覚まさなかったらそこもいずれ安全な場所ではなくなる。
それでも正直羨ましい。僕に逃げ場なんてない。例え世界の崩壊が止まったって、僕は。
「チェシャ猫」
「夢魔! アリスの意識はどうなっている!」
帽子屋は声をあげると、壁にかけてあった鏡から、苦い顔をした夢魔が映る。その表情で、状況が芳しくないことを悟った。
「アリスの夢に入ろうとしているんだけど、ダメだよ、入れない! 強い意志が働いているのか、拒否される!」
「くそ、一体何があったんだ、チェシャ猫、説明しろ!」
「ウサギの穴に入る前は怪我も何もないよ、僕にだって分からない」
ウサギの穴に入る前のアリスは元気そうだったし、体調の面で変わった様子はなかった。繋いだ手がひんやりと冷え始めたのは、ウサギの穴に入ってからだ。
おそらく何らかの強い意志のせいで、夢から出られないのかもしれない。アリスの記憶か、昔の記憶か、暗黒の魔女の企みか。
最悪の想像に、冷や汗が出る。アリスが危険に晒された時も動揺したけれど、今の状況は理由がわからないだけに、恐ろしい。
「大丈夫、帰ってくル」
「君は?」
窓際に、いつの間にか銀色の猫がいる。ダイナだ。
「君、ダイナかい?」
「ソウ。ダイナ。主は今、夢、ミテル。主の、記憶と魔法を受け取っている、邪魔したら、ダメ。でも、邪魔が、くる」
耳に神経を尖らせてみる。アリスのことでいっぱいだった感覚は拡散して、外の様子を的確に捉えた。更に視覚が、現状を強く叩きつけてくる。
地面が壊れ、風景が壊れていく。人々が、世界が、悲鳴をあげている。その中で、猫の耳が捉えたかすかな銃声。更に、金属音と多くの足音が聞こえる。外の様子を伺おうと耳をすませば、館の柵が荒々しく音を立てた。
館の異変に気付いた帽子屋がすばやく窓へと駆ける。
「三月ウサギ!」
「ねぇ、あっち! 兵士の群れの中! 黒ウサギがいるよっ!」
メアリーがぴょんぴょんと飛び上がりながら窓の外を指差す。最悪なことに、黒ウサギが魔物と乱闘しているらしい。
帽子屋は無言で荒々しく部屋を出る。眠りネズミも三月ウサギと黒ウサギ、二人の登場に戸惑いを見せた。
「ちっ、こんな時に!」
アリスをチラリと見ると、眠りネズミも帽子屋の後を追って部屋を出ていった。
「とにかく、黒ウサギを救出しなきゃ!」
夢魔の叫びに、メアリーがこくんと頷く。
「私が兵士の相手をするねっ!」
メアリーは窓を開けると、そこから飛び降りた。
メアリーの常人の域を越える身のこなしは、動物の僕ら以上の身体能力かもしれない。今はそれについて考察するのは無駄だ。
「じゃあ、僕も行ってくる!」
ビルもメアリーを追いかけていくように、窓からでていく。すっかり取り残された僕は、目の覚まさないアリスの手を握る。アリスの手がこんなにも冷たいなんて初めてで、ダイナの言葉を思い出しても不安に駆られた。
「アリス」
君は今、どんな夢を見ているんだい?
僕は毎日、君の夢をみた。幼い頃、あの雨の日。傘を差して雨を遮ったあの日からずっと。君に出会って、楽しくて、愛しい、あの頃の記憶。
どすん、と館が揺れる。その衝撃で棚の本が床へ落下し、シャンデリアがユラユラと揺れた。
世界の崩壊は、もう目の前まで来ている。逃げ場なんてどこにもない。逃げ惑う人々を兵士が安全な方へ誘導をしているようだけど、アリスが目を覚まさなかったらそこもいずれ安全な場所ではなくなる。
それでも正直羨ましい。僕に逃げ場なんてない。例え世界の崩壊が止まったって、僕は。
「チェシャ猫」