桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
後ろから聞こえた声に振り向くと、金色の髪の幼い少女がいた。アリスさんと女王様と同じウェーブのかかった髪。けれど、似てもにつかないくりんとした瞳。不思議な雰囲気を纏った女の子は、アリスさんに近付く。
永遠に思える長い時間。そこにあったのは、悲しみと愛しさ。
その先にあったアリスさんの結末に、私はやっと懐中時計に込められた祈りを知る。
「アリス!」
ゆっくりと瞼を開いた先に、不安げなチェシャ猫の顔があった。まだぐらつく頭を抑えながら起き上がると、固い身体に拘束される。
「チェシャ、猫?」
「アリスが、冷たくて、びっくりしたよ。心配したんだ」
「ごめんね、チェシャ猫。大切な夢を見ていたの」
チェシャ猫がぎゅっと力を込めるから、心臓がはね上がらないか心配になる。チェシャ猫はいつだって私を気にかけてくれるけど、こんな不安そうなチェシャ猫は初めてだ。
「もう大丈夫かい?」
「うん。だから、行かなきゃ」
真実は胸にある。だから、きっと大丈夫。
「なら行こう」
チェシャ猫の手を取り、そのまま立ち上がる。鏡の中で不安そうにこちらを見る夢魔を見つけて、私はにこりと微笑んだ。
「気を付けて、アリス」
「ありがとう、夢魔!」
チェシャ猫に手をひかれ、ウサギの穴の到着地点であった部屋を見る。廊下に出ると、やっとここが帽子屋の館だと気付いた。帽子屋達はどうしているんだろう。
「チェシャ猫、帽子屋は? それに、メアリーとハンプティはどこ?」
「黒ウサギを見つけて向かったよ。帽子屋と眠りネズミは三月ウサギの元にいるよ」
突如、館が激しく揺れ、外からは瓦解する音が聞こえてくる。
廊下を走りながら窓の外を見ると、前に見た光景とは全く異なった街が見えた。
街が世界の揺れに耐えきれず、家も道も倒壊している。パーティーの残骸が、地面にのみこまれていく。
「アリス、外には魔物がいるよ。街も崩壊しかけている。僕のそばを、ギリギリまで離れないで」
チェシャ猫の足の早さに、懸命についてく。チェシャ猫のスピードは、本領の半分以下だ。私に合わせてくれている。
「悔しい」
思わず口に出た言葉。走りながら振り向いたチェシャ猫の顔は、驚いている。
「私も、チェシャ猫みたいに早く走れたら良かったのに」
そうしたら、黒ウサギの元に、白ウサギの元に一刻も早く走っていけたのに。
一刻一刻が惜しい。懐中時計の秒針が鳴る度、急かされる。早く、早く。止めてしまいたい。世界が崩壊しないように。あなたが、消えてしまわないように。
「君は君のままで十分だよ、いや、君は変われたよ、アリス。だって、こんなにも君は前に進んでいる。違うかい?」
過ぎ去る景色と、前へ前へ駆ける足。旅の最初は、どうしてたっけ?
右手にあるチェシャ猫の手。そうだ、私はずっとこの手にひかれていた。進む足は辿々しくて、チェシャ猫に身を任せて。私の足は、引きずられるだけ。それが今、自分の意思で、強い意志を持って動いている。前に、進んでいる。
「弱音を吐いてごめんね。もう、弱音は最後にする」
「うん、ポジティブな、悪戯を仕掛けるくらい元気なアリスらしいね」
冗談を言ったチェシャ猫。何か言い返そうと息を吸ったけど、やめておく。
「アリスは頑張って走ったよ。さぁ、ここからは僕の役目だ」
廊下を走りきって、外へ通じる扉を開けた途端、チェシャ猫は走ったまま私を引っ張った。あっさりとチェシャ猫に自由を奪われた身体は、一瞬でチェシャ猫に抱えられる。チェシャ猫は私をお姫様抱っこしたまま、高くジャンプした。
永遠に思える長い時間。そこにあったのは、悲しみと愛しさ。
その先にあったアリスさんの結末に、私はやっと懐中時計に込められた祈りを知る。
「アリス!」
ゆっくりと瞼を開いた先に、不安げなチェシャ猫の顔があった。まだぐらつく頭を抑えながら起き上がると、固い身体に拘束される。
「チェシャ、猫?」
「アリスが、冷たくて、びっくりしたよ。心配したんだ」
「ごめんね、チェシャ猫。大切な夢を見ていたの」
チェシャ猫がぎゅっと力を込めるから、心臓がはね上がらないか心配になる。チェシャ猫はいつだって私を気にかけてくれるけど、こんな不安そうなチェシャ猫は初めてだ。
「もう大丈夫かい?」
「うん。だから、行かなきゃ」
真実は胸にある。だから、きっと大丈夫。
「なら行こう」
チェシャ猫の手を取り、そのまま立ち上がる。鏡の中で不安そうにこちらを見る夢魔を見つけて、私はにこりと微笑んだ。
「気を付けて、アリス」
「ありがとう、夢魔!」
チェシャ猫に手をひかれ、ウサギの穴の到着地点であった部屋を見る。廊下に出ると、やっとここが帽子屋の館だと気付いた。帽子屋達はどうしているんだろう。
「チェシャ猫、帽子屋は? それに、メアリーとハンプティはどこ?」
「黒ウサギを見つけて向かったよ。帽子屋と眠りネズミは三月ウサギの元にいるよ」
突如、館が激しく揺れ、外からは瓦解する音が聞こえてくる。
廊下を走りながら窓の外を見ると、前に見た光景とは全く異なった街が見えた。
街が世界の揺れに耐えきれず、家も道も倒壊している。パーティーの残骸が、地面にのみこまれていく。
「アリス、外には魔物がいるよ。街も崩壊しかけている。僕のそばを、ギリギリまで離れないで」
チェシャ猫の足の早さに、懸命についてく。チェシャ猫のスピードは、本領の半分以下だ。私に合わせてくれている。
「悔しい」
思わず口に出た言葉。走りながら振り向いたチェシャ猫の顔は、驚いている。
「私も、チェシャ猫みたいに早く走れたら良かったのに」
そうしたら、黒ウサギの元に、白ウサギの元に一刻も早く走っていけたのに。
一刻一刻が惜しい。懐中時計の秒針が鳴る度、急かされる。早く、早く。止めてしまいたい。世界が崩壊しないように。あなたが、消えてしまわないように。
「君は君のままで十分だよ、いや、君は変われたよ、アリス。だって、こんなにも君は前に進んでいる。違うかい?」
過ぎ去る景色と、前へ前へ駆ける足。旅の最初は、どうしてたっけ?
右手にあるチェシャ猫の手。そうだ、私はずっとこの手にひかれていた。進む足は辿々しくて、チェシャ猫に身を任せて。私の足は、引きずられるだけ。それが今、自分の意思で、強い意志を持って動いている。前に、進んでいる。
「弱音を吐いてごめんね。もう、弱音は最後にする」
「うん、ポジティブな、悪戯を仕掛けるくらい元気なアリスらしいね」
冗談を言ったチェシャ猫。何か言い返そうと息を吸ったけど、やめておく。
「アリスは頑張って走ったよ。さぁ、ここからは僕の役目だ」
廊下を走りきって、外へ通じる扉を開けた途端、チェシャ猫は走ったまま私を引っ張った。あっさりとチェシャ猫に自由を奪われた身体は、一瞬でチェシャ猫に抱えられる。チェシャ猫は私をお姫様抱っこしたまま、高くジャンプした。