桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「狡いわよ、アーサー。貴方は未だ消えない私の憎しみも、受け入れるというのね。貴方は私のせいで人生を狂わされたのに。千四百年、貴方は放置され続けなお、私を愛しているというのね」
「愛しているさ、何千年だって、生まれ変わったって君を愛すさ」
ずっと望んでいた。ずっと願っていた。貴女がこうして迎えに来てくれることを。貴女と未来を歩けることを。
ずっと、貴女と共にあることを。
「仕方ないわね、一緒にいてあげるわよ」
アーサーがエレノアを引き寄せて抱き締める。エレノアの心が反映されているのか磔台は消え、街も消えていく。どんよりと闇に覆われていた空に明るさが戻り、太陽の日射しが二人を照らす。二人の足元から草花が生まれ、咲いていく。柔らかな風に思わず瞬くと、見慣れた城が見えた。
「アリス、ありがとう」
アーサーが私に視線を向ける。
そういえば、現実ではアーサーはエレノアを助けた後、誰かに背中を斬られていた。傷は深くみえたし、致命傷だったように思える。
闇に包まれたエレノアは、眠りについた。生きているのか生命を失ったのかは分からない。魔法という奇跡が存在する以上、生死観もまた私が学んだものとは違うのかもしれない。
リティアと目が合う。唇に人差し指が添えられ、私は考えるのをやめた。二人のカラダは、どこかで今もまだ眠っている。共に寄り添って。
「貴女は貴女の未来を紡ぎなさい、アリス」
「うん」
二人の姿が薄らいでいく。二人はやっと、共にあるとこを選ぶことが出来た。例えこれが夢だとしても。
二人の姿が見えなくなっても呆然としている私の腕を、誰かが引っ張る。振り向くとリティアが微笑んでいた。
「ほら、行きましょう。次は貴女が大切な人に気持ちを伝える番でしょ?」
「あの、リティア、どうしてここに?」
「私はもとより、暗黒の魔女に拐われた貴女を取り戻すために、貴女に同行したのよ。暗黒の魔女が、貴女を諦めるはずがないと思ってね。来てみたら貴女がまさに火中で叫んでいるんだもの」
ふ、と息を吐き出すと、呆れたように首を傾げた。人形のように綺麗な顔だから、ため息と分かっていても同じ人間なのだと思えて安心する。
「自ら炎に飛び込むなんて。これは暗黒の魔女の夢。でも、貴女にとっては現実。これは夢でも、魔女の憎しみである炎は、貴女を焼き尽くす為のもの。炎に焼かれたら、貴女は死んでしまうのよ!」
口から火が出ていそうな言葉の勢いに、思わずごめんなさいと謝りそうになる。火の中に飛び込むなんてこと、冷静になった今は無謀だと思うけれど。
「それより、貴女は何者なの?」
十三代目アリスに魔法を授けたり、暗黒の魔女が作ったこの記憶に入れたり。
無理やり話題を変えて怒られるかと思ったけれど、リティアは静かに目を閉じた。
「金色の魔女とでも言おうかしら。この世界の魔法はね、記号と想いと奇跡で出来ているのよ。魔女の烙印を押されたエレノアが魔女となったように、人の言葉が術式となり、憎しみが発動し、奇跡が力を貸した。奇跡は世界の不確定要素、とでも思っておいて。奇跡は無責任だわ。その先に絶望を呼んだとしても、知らんぷり。幸福を呼んだとしても知らんぷり。そうでしょ?」
「うーん」
私の頭がパンクしそうなのを見かねて、この話は終わりだと肩を落とす。上手くはぐらかされてしまった気がする。
「都合の良い奇跡はないの。想いのないところに奇跡は起こらない。これまでもこれからも、貴女が奇跡を掴みとり、選択するのよ」
解るでしょう? とリティアが微笑む。
想いのないところに奇跡は起こらない。まるでそれは、私とチェシャ猫のことを示唆するようだった。
チェシャ猫に会いたいという想いがなければ、きっと私は暗黒の魔女に命を奪われていた。そう考えると、いてもたってもいられなくなってくる。
チェシャ猫に会いたい。今度は貴方に会える奇跡を起こすために私は走りたい。そして、私なりの選択をする。
「マルガレーテが待っているわ。貴方の大切な猫もね」
リティアの手をとる。気が遠くなっていく中、エレノアとアーサーの二人の姿が思い浮かんだ。二人手を繋ぎ、幸せそうな二人。
私も大切な人の手を繋ぎにいく。待っていて、チェシャ猫――
「愛しているさ、何千年だって、生まれ変わったって君を愛すさ」
ずっと望んでいた。ずっと願っていた。貴女がこうして迎えに来てくれることを。貴女と未来を歩けることを。
ずっと、貴女と共にあることを。
「仕方ないわね、一緒にいてあげるわよ」
アーサーがエレノアを引き寄せて抱き締める。エレノアの心が反映されているのか磔台は消え、街も消えていく。どんよりと闇に覆われていた空に明るさが戻り、太陽の日射しが二人を照らす。二人の足元から草花が生まれ、咲いていく。柔らかな風に思わず瞬くと、見慣れた城が見えた。
「アリス、ありがとう」
アーサーが私に視線を向ける。
そういえば、現実ではアーサーはエレノアを助けた後、誰かに背中を斬られていた。傷は深くみえたし、致命傷だったように思える。
闇に包まれたエレノアは、眠りについた。生きているのか生命を失ったのかは分からない。魔法という奇跡が存在する以上、生死観もまた私が学んだものとは違うのかもしれない。
リティアと目が合う。唇に人差し指が添えられ、私は考えるのをやめた。二人のカラダは、どこかで今もまだ眠っている。共に寄り添って。
「貴女は貴女の未来を紡ぎなさい、アリス」
「うん」
二人の姿が薄らいでいく。二人はやっと、共にあるとこを選ぶことが出来た。例えこれが夢だとしても。
二人の姿が見えなくなっても呆然としている私の腕を、誰かが引っ張る。振り向くとリティアが微笑んでいた。
「ほら、行きましょう。次は貴女が大切な人に気持ちを伝える番でしょ?」
「あの、リティア、どうしてここに?」
「私はもとより、暗黒の魔女に拐われた貴女を取り戻すために、貴女に同行したのよ。暗黒の魔女が、貴女を諦めるはずがないと思ってね。来てみたら貴女がまさに火中で叫んでいるんだもの」
ふ、と息を吐き出すと、呆れたように首を傾げた。人形のように綺麗な顔だから、ため息と分かっていても同じ人間なのだと思えて安心する。
「自ら炎に飛び込むなんて。これは暗黒の魔女の夢。でも、貴女にとっては現実。これは夢でも、魔女の憎しみである炎は、貴女を焼き尽くす為のもの。炎に焼かれたら、貴女は死んでしまうのよ!」
口から火が出ていそうな言葉の勢いに、思わずごめんなさいと謝りそうになる。火の中に飛び込むなんてこと、冷静になった今は無謀だと思うけれど。
「それより、貴女は何者なの?」
十三代目アリスに魔法を授けたり、暗黒の魔女が作ったこの記憶に入れたり。
無理やり話題を変えて怒られるかと思ったけれど、リティアは静かに目を閉じた。
「金色の魔女とでも言おうかしら。この世界の魔法はね、記号と想いと奇跡で出来ているのよ。魔女の烙印を押されたエレノアが魔女となったように、人の言葉が術式となり、憎しみが発動し、奇跡が力を貸した。奇跡は世界の不確定要素、とでも思っておいて。奇跡は無責任だわ。その先に絶望を呼んだとしても、知らんぷり。幸福を呼んだとしても知らんぷり。そうでしょ?」
「うーん」
私の頭がパンクしそうなのを見かねて、この話は終わりだと肩を落とす。上手くはぐらかされてしまった気がする。
「都合の良い奇跡はないの。想いのないところに奇跡は起こらない。これまでもこれからも、貴女が奇跡を掴みとり、選択するのよ」
解るでしょう? とリティアが微笑む。
想いのないところに奇跡は起こらない。まるでそれは、私とチェシャ猫のことを示唆するようだった。
チェシャ猫に会いたいという想いがなければ、きっと私は暗黒の魔女に命を奪われていた。そう考えると、いてもたってもいられなくなってくる。
チェシャ猫に会いたい。今度は貴方に会える奇跡を起こすために私は走りたい。そして、私なりの選択をする。
「マルガレーテが待っているわ。貴方の大切な猫もね」
リティアの手をとる。気が遠くなっていく中、エレノアとアーサーの二人の姿が思い浮かんだ。二人手を繋ぎ、幸せそうな二人。
私も大切な人の手を繋ぎにいく。待っていて、チェシャ猫――