桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
握手をかわす二人を遮るように、ハリーお兄様が身体を前に出してチェシャ猫の前に立ちはだかる。これは、ロリーナお姉様を呼んできた方がいいのだろうか。ハリーお兄様がチェシャ猫に喧嘩を売らないかドキドキするけれど、チェシャ猫の眠りネズミへの態度を思い出すと火花が散りそうで心配だ。
しかし、そんな私の焦りを切り裂くように、ハリーお兄様が勢いよく一歩下がり、頭を思い切り下げた。
「妹を守ってくれて感謝する。このハリー・リデル・プレザンス、心から感謝している」
「ハリーお兄様」
今度はチェシャ猫が驚いて、ハリーお兄様を凝視する番だった。けれどすぐに口元の三日月を消す。
「それはこちらの台詞だよ。君達お兄様達家族がアリスを守り続けてくれたこそ、僕も此処にいるんです。アリスが、彼女がいなかったら、僕に未来はなかったんですから」
今度はこちらが口を開けてしまう。チェシャ猫が敬語で話している。女王様にだって敬語を使わなかったチェシャ猫が。
気付けばチェシャ猫は白いタキシードを着ていて、猫耳もどこにしまったのか見当たらない。シャキッと着こなしたその立ち姿と眼差しに、胸が高鳴る。何度でも好きになるって、こういう瞬間なんだろうか。
同じくやり取りを見守るジェームズと目が合うと、ジェームズはやれやれと肩をすぼめる。
「大事にします。この身体が朽ちて、アリスと手を繋げなくなるまで永遠に。命をかけてアリスを守ります。幸せにします」
「あぁ、よろしく頼む」
「あーん、お姉様ばかり羨ましいですわ!」
甲高い声が廊下から聞こえたかと思うと、イーディスが私の部屋に飛んで来る。
「こんな素敵な男性に! 守ってもらえるなんて! いえ、それよりも、なぜ気になる方がいると、しかも恋人になったと私に教えてくださらないの! しかもこんな早く紹介なさるなんて! 心の準備が出来ないわ!」
「い、イーディス落ち着いて」
鏡台に映るイーディスが握った拳を上下させる。当たりそうで怖い。早朝から身支度を整えていたイーディスは、いつもより髪も肌も、艶めいて見える。
「チェシャ猫は恋人ってわけじゃ」
「えっ」
「えっ!」
「え」
イーディス、ハリーお兄様だけじゃなく、チェシャ猫まで目を丸くしてこちらを見つめてくる。イーディスは素早く私に顔を近付けると、小声でお姉様! と私を叱りつける。
「お姉様達、両思いなのでしょう? 両思いというのは、好きあっている、ってことですわよね。世間では、そのような二人を恋人同士って言うんですの!」
「恋人同士」
何だか恥ずかしくなって、顔が暑くなっていく。家族に恋人同士だと言われると、何だかくすぐったい。でも、想いが通じた実感が沸いてくる。
ちらりとチェシャ猫を盗み見ると、項垂れて寂しそうにしているので、恋人ですと宣言した。言葉にすると更に恥ずかしい。
「まぁハリー、廊下で挨拶したの? イーディスも、やっぱりアリスの部屋にいたのね。走ってはダメよ」
すでに挨拶は済ましてあるのか、チェシャ猫はロリーナお姉様に軽く会釈する。ロリーナお姉様は部屋に入ってくると、いつまでもうまく結べない私の髪を慈しむように手に取る。櫛を手渡すと、桃色の長い髪を鋤いてあっという間に結ってしまった。
「ありがとう」
「準備はこれで最後ね」
「うん、これで出発出来るよ」
「本当に、行ってしまうんですの?」
「うん」
しょんぼりとするイーディスの背中を擦る。するとすぐに元気を取り戻して、私の手を引いた。
しかし、そんな私の焦りを切り裂くように、ハリーお兄様が勢いよく一歩下がり、頭を思い切り下げた。
「妹を守ってくれて感謝する。このハリー・リデル・プレザンス、心から感謝している」
「ハリーお兄様」
今度はチェシャ猫が驚いて、ハリーお兄様を凝視する番だった。けれどすぐに口元の三日月を消す。
「それはこちらの台詞だよ。君達お兄様達家族がアリスを守り続けてくれたこそ、僕も此処にいるんです。アリスが、彼女がいなかったら、僕に未来はなかったんですから」
今度はこちらが口を開けてしまう。チェシャ猫が敬語で話している。女王様にだって敬語を使わなかったチェシャ猫が。
気付けばチェシャ猫は白いタキシードを着ていて、猫耳もどこにしまったのか見当たらない。シャキッと着こなしたその立ち姿と眼差しに、胸が高鳴る。何度でも好きになるって、こういう瞬間なんだろうか。
同じくやり取りを見守るジェームズと目が合うと、ジェームズはやれやれと肩をすぼめる。
「大事にします。この身体が朽ちて、アリスと手を繋げなくなるまで永遠に。命をかけてアリスを守ります。幸せにします」
「あぁ、よろしく頼む」
「あーん、お姉様ばかり羨ましいですわ!」
甲高い声が廊下から聞こえたかと思うと、イーディスが私の部屋に飛んで来る。
「こんな素敵な男性に! 守ってもらえるなんて! いえ、それよりも、なぜ気になる方がいると、しかも恋人になったと私に教えてくださらないの! しかもこんな早く紹介なさるなんて! 心の準備が出来ないわ!」
「い、イーディス落ち着いて」
鏡台に映るイーディスが握った拳を上下させる。当たりそうで怖い。早朝から身支度を整えていたイーディスは、いつもより髪も肌も、艶めいて見える。
「チェシャ猫は恋人ってわけじゃ」
「えっ」
「えっ!」
「え」
イーディス、ハリーお兄様だけじゃなく、チェシャ猫まで目を丸くしてこちらを見つめてくる。イーディスは素早く私に顔を近付けると、小声でお姉様! と私を叱りつける。
「お姉様達、両思いなのでしょう? 両思いというのは、好きあっている、ってことですわよね。世間では、そのような二人を恋人同士って言うんですの!」
「恋人同士」
何だか恥ずかしくなって、顔が暑くなっていく。家族に恋人同士だと言われると、何だかくすぐったい。でも、想いが通じた実感が沸いてくる。
ちらりとチェシャ猫を盗み見ると、項垂れて寂しそうにしているので、恋人ですと宣言した。言葉にすると更に恥ずかしい。
「まぁハリー、廊下で挨拶したの? イーディスも、やっぱりアリスの部屋にいたのね。走ってはダメよ」
すでに挨拶は済ましてあるのか、チェシャ猫はロリーナお姉様に軽く会釈する。ロリーナお姉様は部屋に入ってくると、いつまでもうまく結べない私の髪を慈しむように手に取る。櫛を手渡すと、桃色の長い髪を鋤いてあっという間に結ってしまった。
「ありがとう」
「準備はこれで最後ね」
「うん、これで出発出来るよ」
「本当に、行ってしまうんですの?」
「うん」
しょんぼりとするイーディスの背中を擦る。するとすぐに元気を取り戻して、私の手を引いた。