桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
私が叫んだ直後、一瞬の間をおいて薔薇の蔦がチェシャ猫達のいる方向へとスピードを出して向かい、襲いかかっていく。チェシャ猫が長い爪を出して切り裂いても、蔦は勢いを増して増殖していっていた。このままでは、二人共捕まってしまう。
「帽子屋! 止めて!」
薔薇の蔦をかき分け、見えなくなった帽子屋を探す。
「痛っ!」
拒絶するように生えた刺が身体中に刺さり、傷に痛みが走る。
痛い、けど。今はそんな事言っていられない。帽子屋を止めないと。
蔦をかき分けた先に微かに見えた繊細にバラが飾られた帽子。
「帽子屋! 薔薇を止めて!」
薔薇の蔦を更にかき分け進む。けれど後一歩の所で太く強い蔦があり、かき分ける事が不可能となった。私の力じゃこの蔦が退かせない。帽子屋まで後一歩なのに。
「帰って来るんだ、三月ウサギは、帰って来る。帰って来る」
三月、ウサギ?
「アリスも俺の所に帰ってきた。だから後はアイツが居れば」
周りに眼中のなかった帽子屋が、ふ、と私を見つける。出会った時に見た、深層を覗く帽子屋の瞳。元の帽子屋――?
「大切なものが消える悲しみが、お前にわかるのか」
そして呟いた言葉は、私の足を止めると同時に、薔薇の増殖スピードは更に上がっていく。
「アリス! 伏せて!」
「きゃ」
頭上から聞こえた言葉に従い、咄嗟に伏せる。伏せた直後、誰かに抱き寄せられながら、蔦の切り刻まれた音が耳に届いた。
「あのクソ猫! 派手にやりやがって!」
耳元で聞こえた不機嫌そうな声の方に顔を向けると、直ぐ近くに眠りネズミの顔がある。
「眠りネズミ!」
「ああ。平気か?」
「うん。でも、」
先程までいた方向を見つめると、帽子屋が操る薔薇にチェシャ猫が苦戦している。
「チッ。帽子屋の野郎、狂気に呑まれかけてやがる。アリスは此処にいろ。俺が」
「待って!」
帽子屋の所へ行こうとする眠りネズミの服を掴む。
「帽子屋どうしちゃったの? それに帽子屋が三月ウサギって」
「今の帽子屋は、呪いのせいで狂っている。三月ウサギがいなくなってから、ここまで酷く狂ったのは初めてだがな。崩壊が始まったのが原因だろうが、どちらにしろ、三月ウサギも原因だろうな」
「いなくなった、って、どうして」
眠りネズミの話を聞いて、三月ウサギはおそらく此処で住んでいたことが分かった。だから黒ウサギの事と同様、帽子屋にとって三月ウサギは大事な存在。
「三月ウサギも帽子屋と同じ呪いがかかっている。しかも、帽子屋の比なんかならねぇくらい精神が崩壊する呪いだ。三月ウサギは、その呪いに耐えきれず此処を飛び出した。まぁ、三月ウサギの真意なんて分からねーがな。本当に耐えきれず飛び出したのか、それとも」
眠りネズミの緊迫した表情が少しだけ緩む。口元もほんの少し上がった気がした。
「帽子屋の野郎を止めねーといけねぇな。アリス、ここで大人しく出来るな?」
「うん。でも、私も!」
「フン。俺にもしもなんてねぇよ。だから絶対来るな。傷、作るならお仕置きだぜ?」
「えっ、って、ひゃあ!」
腕を持ち上げられたかと思うと、さっき棘でできたかすり傷を舐められた。
「大人しく出来るよな? アリス?」
舌なめずりをした眠りネズミ。またもや舐められそうな気配を感じ、必死で頭を上下にふる。
「ククッ、大人しくしてねーと後でお仕置きだぜ?」
ニヤリ笑い、怪しい言葉を残すと眠りネズミは帽子屋に向かって走っていった。
……大人しくしていよう。
「帽子屋! 止めて!」
薔薇の蔦をかき分け、見えなくなった帽子屋を探す。
「痛っ!」
拒絶するように生えた刺が身体中に刺さり、傷に痛みが走る。
痛い、けど。今はそんな事言っていられない。帽子屋を止めないと。
蔦をかき分けた先に微かに見えた繊細にバラが飾られた帽子。
「帽子屋! 薔薇を止めて!」
薔薇の蔦を更にかき分け進む。けれど後一歩の所で太く強い蔦があり、かき分ける事が不可能となった。私の力じゃこの蔦が退かせない。帽子屋まで後一歩なのに。
「帰って来るんだ、三月ウサギは、帰って来る。帰って来る」
三月、ウサギ?
「アリスも俺の所に帰ってきた。だから後はアイツが居れば」
周りに眼中のなかった帽子屋が、ふ、と私を見つける。出会った時に見た、深層を覗く帽子屋の瞳。元の帽子屋――?
「大切なものが消える悲しみが、お前にわかるのか」
そして呟いた言葉は、私の足を止めると同時に、薔薇の増殖スピードは更に上がっていく。
「アリス! 伏せて!」
「きゃ」
頭上から聞こえた言葉に従い、咄嗟に伏せる。伏せた直後、誰かに抱き寄せられながら、蔦の切り刻まれた音が耳に届いた。
「あのクソ猫! 派手にやりやがって!」
耳元で聞こえた不機嫌そうな声の方に顔を向けると、直ぐ近くに眠りネズミの顔がある。
「眠りネズミ!」
「ああ。平気か?」
「うん。でも、」
先程までいた方向を見つめると、帽子屋が操る薔薇にチェシャ猫が苦戦している。
「チッ。帽子屋の野郎、狂気に呑まれかけてやがる。アリスは此処にいろ。俺が」
「待って!」
帽子屋の所へ行こうとする眠りネズミの服を掴む。
「帽子屋どうしちゃったの? それに帽子屋が三月ウサギって」
「今の帽子屋は、呪いのせいで狂っている。三月ウサギがいなくなってから、ここまで酷く狂ったのは初めてだがな。崩壊が始まったのが原因だろうが、どちらにしろ、三月ウサギも原因だろうな」
「いなくなった、って、どうして」
眠りネズミの話を聞いて、三月ウサギはおそらく此処で住んでいたことが分かった。だから黒ウサギの事と同様、帽子屋にとって三月ウサギは大事な存在。
「三月ウサギも帽子屋と同じ呪いがかかっている。しかも、帽子屋の比なんかならねぇくらい精神が崩壊する呪いだ。三月ウサギは、その呪いに耐えきれず此処を飛び出した。まぁ、三月ウサギの真意なんて分からねーがな。本当に耐えきれず飛び出したのか、それとも」
眠りネズミの緊迫した表情が少しだけ緩む。口元もほんの少し上がった気がした。
「帽子屋の野郎を止めねーといけねぇな。アリス、ここで大人しく出来るな?」
「うん。でも、私も!」
「フン。俺にもしもなんてねぇよ。だから絶対来るな。傷、作るならお仕置きだぜ?」
「えっ、って、ひゃあ!」
腕を持ち上げられたかと思うと、さっき棘でできたかすり傷を舐められた。
「大人しく出来るよな? アリス?」
舌なめずりをした眠りネズミ。またもや舐められそうな気配を感じ、必死で頭を上下にふる。
「ククッ、大人しくしてねーと後でお仕置きだぜ?」
ニヤリ笑い、怪しい言葉を残すと眠りネズミは帽子屋に向かって走っていった。
……大人しくしていよう。