桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
3 ウサギの部屋
3 ウサギの部屋
次の日の朝。外は天気が良く、窓からは太陽のおだやかな日射しが入ってくる。時計の針を見ると、お茶の時間を指しているかと思ったら、鏡に反射していた。お茶の時間に十分びっくりしちゃったけど、そうじゃなくても驚きだ。
「寝過ぎちゃった」
もう皆起きている頃だろう。私も早く準備しなきゃ。まずぐしゃぐしゃになった髪を梳かさないと。
櫛で梳かしているとノックがして、返事をするとゆっくりとドアが開いた。
「眠れたかい?」
「チェシャ猫、おはよう」
身支度をすっかり整えたチェシャ猫は、寝すぎた私を見てにやりと笑う。
「ゆっくり休めたみたいだね」
「う、ごめんなさい」
反射的に謝ると、冗談だよ、と言って優しい笑みに変わる。
フードで隠れることのない表情は意外にもコロコロ変わって、隠されていたのがもったいないくらいだ。
「帽子屋が待っているよ。君に知ってもらいたいことがあるみたいだ」
「なんだろう」
「ウサギの部屋、だよ」
きょとん、とした私の手をとり、チェシャ猫と部屋を出る。館の奥へと進むと、時計をモチーフにした扉に行き当った。
「ここがウサギの使っていた部屋だ」
すでに待機していた帽子屋が、鍵を使いドアを開ける。
「ここは白ウサギと黒ウサギが使っていた部屋だ。二人同時に使うことはなかったが」
――白ウサギと黒ウサギは決して交わる事はない――
「黒ウサギは俺の大事な家族だ。だから、アリスには二人の事を知っておいて欲しい。先日はまどろっこしい言い方をしてすまない」
帽子屋が切なそうな顔をした。本当に二人の事がとても大事なんだろう。
「うん」
昨夜、帽子屋が荒れ狂う中、呟いたあの言葉。
『大切なものが消える悲しみが、お前にわかるのか』
考えた。もし、女王様やリズやジャックさんがいなくなってしまったら。私にとって、大切な人が消えてしまったら。
それがどれだけ恐ろしいことか、想像したくない。崩壊のことを知ってから、刻限の日まで考えることをしなかったように、目を逸らしてしまいたい。でも、逸らしちゃダメなんだ。考えることをやめれば、大切なものを失ってしまう。だから、もっと考えて。もっと向き合って。 ちゃんと知らなきゃ。二人の事。
「二人の事、教えて」
「アリス」
チェシャ猫が心配そうに私を見つめる。
「チェシャ猫が心配している事、分かっている。ウサギの事を知れば知る程、どちらかを選ぶ事が難しくなるって事。分かっているけど、考えなきゃいけない気がするの。ごめんね。チェシャ猫。心配させてばかりで。でも、呪いのことを考えたい。ちゃんと向き合いたいの」
「分かったよ。君が知りたいと望むなら、僕はついていくよ。中に入ろう」
帽子屋とチェシャ猫と共に部屋に入る。
「此処が、ウサギ達が使っていた部屋……」
どの部屋にもあるベッドやタンス、クローゼットに机や椅子。他の部屋と同じだけど、この部屋には少しだけ生活感が漂っている。二人が交互に使うのを分かっていてか、部屋の中はきちんと片付いていた。
「部屋の中綺麗だね」
「二人とも綺麗好きだからな」
部屋の中を見渡していると、ふと机の上に置いてあるものが目に入った。机に近づいてそれをよく見てみる。
「黒い、飛行機の模型?」
机の上に置いてあったのは黒い飛行機の置物。どちらかのウサギの持ち物なのかな。飛行機の置物は古く、だいぶ前に作られたものみたいだった。
「それは黒ウサギのだ。気になるのか?」
「黒ウサギの? これ、二人乗りなんだね」
「本当だ」
チェシャ猫が横から手を伸ばし、模型を手に取る。そしてその模型を私の手のひらに乗せてくれた。黒ウサギにとっての思い出の品、なのだろうか。もしかしたら、白ウサギにとっても……
飛行機の模型を回しながら見ると、裏には白いペンで文字が書いてある。
「これ」
次の日の朝。外は天気が良く、窓からは太陽のおだやかな日射しが入ってくる。時計の針を見ると、お茶の時間を指しているかと思ったら、鏡に反射していた。お茶の時間に十分びっくりしちゃったけど、そうじゃなくても驚きだ。
「寝過ぎちゃった」
もう皆起きている頃だろう。私も早く準備しなきゃ。まずぐしゃぐしゃになった髪を梳かさないと。
櫛で梳かしているとノックがして、返事をするとゆっくりとドアが開いた。
「眠れたかい?」
「チェシャ猫、おはよう」
身支度をすっかり整えたチェシャ猫は、寝すぎた私を見てにやりと笑う。
「ゆっくり休めたみたいだね」
「う、ごめんなさい」
反射的に謝ると、冗談だよ、と言って優しい笑みに変わる。
フードで隠れることのない表情は意外にもコロコロ変わって、隠されていたのがもったいないくらいだ。
「帽子屋が待っているよ。君に知ってもらいたいことがあるみたいだ」
「なんだろう」
「ウサギの部屋、だよ」
きょとん、とした私の手をとり、チェシャ猫と部屋を出る。館の奥へと進むと、時計をモチーフにした扉に行き当った。
「ここがウサギの使っていた部屋だ」
すでに待機していた帽子屋が、鍵を使いドアを開ける。
「ここは白ウサギと黒ウサギが使っていた部屋だ。二人同時に使うことはなかったが」
――白ウサギと黒ウサギは決して交わる事はない――
「黒ウサギは俺の大事な家族だ。だから、アリスには二人の事を知っておいて欲しい。先日はまどろっこしい言い方をしてすまない」
帽子屋が切なそうな顔をした。本当に二人の事がとても大事なんだろう。
「うん」
昨夜、帽子屋が荒れ狂う中、呟いたあの言葉。
『大切なものが消える悲しみが、お前にわかるのか』
考えた。もし、女王様やリズやジャックさんがいなくなってしまったら。私にとって、大切な人が消えてしまったら。
それがどれだけ恐ろしいことか、想像したくない。崩壊のことを知ってから、刻限の日まで考えることをしなかったように、目を逸らしてしまいたい。でも、逸らしちゃダメなんだ。考えることをやめれば、大切なものを失ってしまう。だから、もっと考えて。もっと向き合って。 ちゃんと知らなきゃ。二人の事。
「二人の事、教えて」
「アリス」
チェシャ猫が心配そうに私を見つめる。
「チェシャ猫が心配している事、分かっている。ウサギの事を知れば知る程、どちらかを選ぶ事が難しくなるって事。分かっているけど、考えなきゃいけない気がするの。ごめんね。チェシャ猫。心配させてばかりで。でも、呪いのことを考えたい。ちゃんと向き合いたいの」
「分かったよ。君が知りたいと望むなら、僕はついていくよ。中に入ろう」
帽子屋とチェシャ猫と共に部屋に入る。
「此処が、ウサギ達が使っていた部屋……」
どの部屋にもあるベッドやタンス、クローゼットに机や椅子。他の部屋と同じだけど、この部屋には少しだけ生活感が漂っている。二人が交互に使うのを分かっていてか、部屋の中はきちんと片付いていた。
「部屋の中綺麗だね」
「二人とも綺麗好きだからな」
部屋の中を見渡していると、ふと机の上に置いてあるものが目に入った。机に近づいてそれをよく見てみる。
「黒い、飛行機の模型?」
机の上に置いてあったのは黒い飛行機の置物。どちらかのウサギの持ち物なのかな。飛行機の置物は古く、だいぶ前に作られたものみたいだった。
「それは黒ウサギのだ。気になるのか?」
「黒ウサギの? これ、二人乗りなんだね」
「本当だ」
チェシャ猫が横から手を伸ばし、模型を手に取る。そしてその模型を私の手のひらに乗せてくれた。黒ウサギにとっての思い出の品、なのだろうか。もしかしたら、白ウサギにとっても……
飛行機の模型を回しながら見ると、裏には白いペンで文字が書いてある。
「これ」