桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~
「アリスが心配する事ねーよ! こいつなら乗り越えられるさ」
 仕立て屋もそう言って笑ってくれた。まだ不安はあるけど、二人が大丈夫だと言うのならきっと大丈夫だよね。再び寝ている眠りネズミの顔を見つめる。
「無理、させちゃってごめんね。今度はちゃんと気付けるように気をつけるから。今は、ゆっくり休んでね」 
「なぁお二人さん。飯食った?」
「へ? そういえば」
「食べてないね」
 チェシャ猫と顔を見合わせる。白ウサギを探すのに夢中でお昼ご飯を食べていない。
「お腹減ったかも」
「んじゃ飯食おうぜ。ほら、今日はアンハッピーバースデーだ! 外行くぞ!」
「え、ちょっと」
 元気に飛び出していった仕立て屋を追いかける。外はまだパーティーが続いていた。人々はカップを片手に踊っている。
「ほれほれ、作るぞ!」
「作るって、一体、外でどうやって?」
疑問に思う私の前に、ふよふよと空中を漂うクッキーが現れる。
 その行き先を視線で追うと、頭上にはポットやキャンディ、中にはお肉や魚まで空中に漂っていて、ぽかんとしてしまった。
「今日はこれとこれと混ぜ合わせて、へへっ、オムライスの完成だ!」
「早い! どうやったの?」
 手際の良さはまるでマジックのようで。あっという間に仕立て屋の手にはとろとろのオムライスがある。どこから用意したのか、しっかりとお皿の上に乗っているから魔法みたいでもある。
「だからーこれとこれをこーすれば出来るだろー」
「卵とご飯と、えっとケチャップとあとこれを、こう?」
 同じようにやってみても、なかなか上手くいかず、仕立て屋が作ったような黄色く輝くオムライスどころか、紫色に変色した。
「なんでそーなんだよ。食いモンじゃねーなこれ」
「アリスは料理が苦手なんだね」
「ぶはははっ! つーか苦手って言うよりも壊滅的だろ!」
「酷い……」
 あまりの恥ずかしさに、オムライスを手で覆って隠す。つまんで食べてみると、甘さと苦味と辛さが一気に襲ってきた。さらに形容できない異臭に、分量の問題だけではないことに、二重のショックを受けた。あまりのショックに肩が下がる。
「仕立て屋」
「いででででで! フォーク飛ばすな! やろっ、いてっ!」
 チェシャ猫が私の代わりに報復してくれているのを止めながら、城でのことを思い出す。
 料理が苦手だった私は、城の料理人に頼んで定期的に教えてもらっていた。火加減を知らずに料理したせいで時に調理場は毎回炭も同然となり、分量の感覚を間違えて今日みたいな珍味を作ってトランプ兵を卒倒させたり。思い返せば料理をするといいことがない。けれど、諦めてはまた仕立て屋に笑われてしまう。料理を作るのは女王様に禁止されているけど、城に帰ったらこっそり料理人に教えてもらおう。
「あー痛かったぜ。アリス、早く料理食わねぇとオイラが食っちまうぞ」
 仕立て屋はいつの間に作ったのか、ハンバーグをパクリと食べる。それだけじゃ足りないのか、チェシャ猫の魚にまで手を伸ばし出す。
「させないよ」
「すきありっ!」
 仕立て屋は箸の行き先を変えると、チェシャ猫の皿に乗った魚を一瞬で取った。さすがのチェシャ猫も、驚いて目を丸くする。
「へへっ! いっただきー!」 
「し、仕立て屋っ! それチェシャ猫の」
 魚、と言うよりも前に仕立て屋は魚を口に入れた。
「僕の魚……」
 美味しそうに魚を頬張る仕立て屋を見て、今度はチェシャ猫がショックを受けている。
「魚の代わりにはならないけど、はい、このハンバーグをチェシャ猫にあげるよ」
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