想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜
「そういうわけではないですけど……」

 同じ便のクルーとはいえ、大して話したこともない男がチーフの代わりに現れたら、さすがの三崎さんも戸惑うんじゃないだろうか。

 しかも彼女は、俺のことを『苦手』だと言っていた。

 フライト中に話した時は、そんなこと微塵も感じさせなかったが、それは彼女が『接客のプロ』だから。

 プライベートとなると、話は変わるだろう。


「チーフの代わりに俺が行ったりしたら、三崎さんも気を遣うのでは?」

『シャガールのアメリカズウインドウを見に行く約束をしていて、彼女とても楽しみにしているの。私のせいで予定がキャンセルになったらかわいそうだわ。青柳さん、私のお願いきいてくれないの?』

「いや、そういうわけでは……」

 それとなく、断る方向に持っていこうとしてみたが、なぜかやたらと蓮見チーフからの押しが強い。

『お願い、頼れるのはあなたしかいないの』
「……わかりました」

 これまで散々世話になってきた恩人にそこまで言われたら断れない。

「ただし、チーフの代わりに俺が行くことは事前に三崎さんに伝えておいてくださいね。驚かせたくないので」
『わかったわ。ありがとう!』 

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