敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「どちらの方角へ連れて行かれたか、分かるか?」
「……北の方角でした……」

 エルフナルドは、北を見据えて眉をひそめた。

「北、か……」
「……何か、お心当たりがおありなのでございますか?」

 エルフナルドは視線をアリシアへ戻し、ふと怪訝な表情を浮かべた。

「……お前、その背中はどうした?」

 傷自体は既に癒えていたが、服は裂け、背中側は血で酷く汚れていた。

「……これは……」

 アリシアは言葉に詰まり、視線を落とした。
 ユリアの力のことを話すべきか、迷っている様子だった。
 その表情を一目見て、エルフナルドはそれ以上追及しなかった。

「……怪我がないのなら、それでよい。この先に村がある。そこで待機していろ。使いの者を向かわせるから、合流したら国へ戻れ」
「……かしこまりました」

 そう告げると、エルフナルドはカリルと共に北の方角へ馬を走らせた。

「……これは私の推測だが、おそらく連れて行かれた先はユーハイム国だ。急ぐぞ」
「……御意」

 疾走する途中――
 二人は道の脇に倒れているアルジール国の護衛たちを見つけた。
 
 眠らされていたのだろう。

「……お前は、その者たちから話を聞いてからユーハイムへ向かってくれ」
 
 カリルの叫び声が背後から聞こえた。
 だがエルフナルドは、振り返ることすらしなかった。
 胸の奥を締め付ける焦燥が、呼吸を荒くさせていた。
 手綱を握る指に、無意識に力がこもっていた。
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