敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
ある夜のことだった。
夕食を終え、二人はいつものように寝室へ戻っていた。
ユリアは寝台の端に腰掛けながら、どこか落ち着かない様子で指先を絡めている。
そんな様子を見て、エルフナルドが小さく息を吐いた。
「まだ慣れないか」
「……え?」
ユリアはエルフナルドの問いに、首を傾げた。
「同じ部屋で眠ることだ」
図星を突かれ、ユリアは慌てて首を振る。
「い、いえ……そのようなことは……」
「顔に書いてある」
あっさりと言われ、ユリアは思わず口を閉ざした。
しばらくの沈黙のあと、エルフナルドは寝台に腰を下ろす。
「怖いか」
低い声で問われ、ユリアは一瞬だけ目を伏せた。
怖いわけではない。
けれど、胸の奥が落ち着かない。
その理由をうまく言葉にできず、ユリアは小さく首を横に振った。
「……違います。ただ、その……」
言葉を探すように視線をさまよわせ、やがて小さく続ける。
「まだ、夢のようで……」
「夢?」
エルフナルドは、怪訝な表情を浮かべた。
「はい。アルジールに戻ってきて、こうして普通に過ごしていることが……」
ユリアは小さく息をついた。
「あの時は、本当に――」
そこまで言って、言葉が途切れる。
思い出したくない記憶がよぎったのだろう。
エルフナルドは何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと手を伸ばし、そのまま、ユリアの頭を軽く引き寄せた。
「なら、夢ではないと覚えておけ」
静かな声だった。
「お前は、ここにいる」
ユリアの額が、エルフナルドの胸に触れる。
不意のことに驚きながらも、ユリアは抵抗しなかった。
代わりに、そっと服を握る。
その小さな仕草を感じ取ったのか、エルフナルドはわずかに腕の力を強めた。
「……ほら、こうしていれば、少しは落ち着くだろう」
ぶっきらぼうな言い方だったが、声はどこか優しい。
ユリアはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい」
その夜もまた、ユリアはエルフナルドの腕の中で眠りについた。