敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
「お待たせしました」

 現れたのは、フレドリックだった。

「あの……ここは、一体……」
「用事が少し長引いてしまって。申し訳ありません」

 含みを持たせた笑みを浮かべながら、彼は問いには答えない。

「手紙は、きちんと書きましたか?」
「……はい。でも……本当に、周りの皆には……手を出さないと、約束してくださるのですよね……?」

 恐る恐る尋ねるユリアに、フレドリックは頷いた。

「もちろん。約束は守りますよ。ただし――」
「……ただし?」
「ここで、あなたにやっていただくことがあります。それが出来ないのなら、約束も守れません」
「私が……やること……?」

 一歩、フレドリックが近づく。
 嫌な予感に、ユリアの指先が冷たくなる。

「兄上に代わって――私と、子を作っていただきます」

 言葉が、部屋に重く落ちた。

「……え……?」

 言葉の意味が、理解できるまでに時間がかかった。

「兄上があなたとの子を成さなかった場合、その役目を私が担うよう、父上から言われていました」

 フレドリックは平然と微笑み、距離を詰める。

「な、何を言って……そんなこと、出来るわけありません!」
「あなたの意思は関係ありません」

 声音が、低く変わった。

「私は父上に命じられた。それだけです」
「……それが、フレドリック様の望みなのですか……?」
 
 問いかけた瞬間、フレドリックの表情が歪んだ。

「僕の……意思だと?」

 声が震える。

「この状況で、そんなことを聞くのですか……腹立たしい!」

 怒声が室内に響いた。

「父上の命令は絶対だ……! それに……僕には、もうこの道しか残されていない……」

 一瞬、フレドリックの表情に翳りが差した。
 しかし直後、仮面のように戻った表情の奥で、何か決意めいた光が揺れているのをユリアは見逃さなかった。
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