敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

79 闇に沈む一歩

 次の日、薬事室で作業をしていたユリアは、外で見張りをしていたセルビアに声をかけた。

「最近採れた薬草をいくつか混ぜて、紅茶を淹れてみたの。セルビアも一緒に飲んでくれないかしら?」
「ありがとうございます。では、少し休憩をいただきますね」

 セルビアは疑うことなくカップを受け取り、ユリアと向かい合って腰を下ろした。

 穏やかな香りが薬事室に広がる。
 
 ユリアはセルビアが一口、二口と飲み進めるのを、胸の奥が締め付けられる思いで見守っていた。

「……少し眠くなる薬草も入っているの。最近お疲れのようだったから……」

 セルビアはやがて言葉少なに頷き、椅子に深くもたれかかった。

「ユリア様……ありがとうございます……。すみません、少しだけ……」

 その言葉を最後に、セルビアの瞼がゆっくりと落ちた。
 ほどなくして、静かな寝息が聞こえ始めた。
 ユリアは、完全に眠りに落ちたことを確かめると、そっと薬事室を後にした。

 ――ごめんなさい、セルビア……。

 門兵の巡回の隙を縫い、ユリアは王宮の外へ出た。
 昨夜、フレドリックが告げた通り、外れに一台の馬車が待っていた。

「お待ちしておりました。どうぞ」

 促されるままに乗り込むと、馬車はすぐに走り出した。
 
 どれほどの時間が経ったのか分からない。
 揺れに身を任せるうち、外はすっかり闇に包まれていた。
 馬車が止まり、案内されたのは郊外にある屋敷だった。
 装飾は控えめだが、明らかに貴族の住まいであることが分かる。

「こちらでお待ちください」

 一室に通され、扉が閉まる。
 ひとり残されたユリアは、胸元を押さえ、落ち着かぬ呼吸を整えようとした。

 しばらくして、扉が開く。

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