敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
番外編ー口付けー

おねだり

「おやすみ、ユリア」

 エルフナルドはそう声をかけると、ユリアの唇にそっと口付けをした。
 触れるだけの、いつもの優しい口付け。
 唇が離れると、今度は包み込むように抱きしめられる。

「おやすみなさい、エルフナルド様」

 ユリアもその背にそっと手を回し、目を閉じた。
 
 この穏やかな時間は、王宮に戻ってからずっと続いているものだった。
 
 優しくて、あたたかくて――
 とても、幸せな時間だった。
 けれど、唇が離れる、そのわずかな瞬間。
 ユリアの指先が、ほんの少しだけ名残を追うように動いた。
 
 そんな日々が続いていた、ある日。
 ユリアは書庫で本を探していた。

「ユリア様、お目当ての本は見つかりましたか?」

 声をかけながら、アリシアが歩み寄ってくる。

「ええ、大体は。ただこのあたりの本は少し難しくて……読む量が増えてしまうのよ」

 ユリアは抱えていた本をテーブルの上に置いた。

「すごい量でございますね。全部お読みになるのですか?」

 積み上げられた本を見て、アリシアが感心したように言う。

「必要なところだけよ。アリシアはどんな本を借りたの?」
「恋愛小説です。今、侍女たちの間で流行っていて……とっても素敵な物語なんですよ」

 アリシアはそう言うと嬉しそうに本を掲げた。
 目を輝かせるその様子に、ユリアは思わず微笑む。

「どんなお話なの?」
「王子様と侍女のシンデレラストーリーなんです。一巻は二人が身分違いの恋を乗り越えて結ばれるまでで、二巻以降は結ばれてからのお話です。特に二巻以降は、きゅんとする場面が多くて……」

 楽しげに語りだしたアリシアは少し身を乗り出した。

「何たって、口付けの描写がとても良くて……」
「口付け……?」

 ユリアは思わず聞き返す。

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