敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 夕方、庭園から自室へと戻ったユリアは、借りてきた恋愛小説を読んでいた。
 
 ページをめくる手が止まらない。
 物語の中の二人は何度も口付けを交わしていた。
 
 別れ際に。
 再会したときに。
 何気ない瞬間に。
 当たり前のように重ねられる口付け。

 ――……こんなに、何度も……。
 
 エルフナルド様がしてくださる口付けは、いつも眠る前の一度だけ。
 それで十分だったはずなのに――
 唇が離れるたび、もう少しだけと思ってしまう。

 はっとして本を閉じる。
 顔が熱い。
 
 ――何を考えているの、私は。

 けれど一度意識してしまうと、もう考えないようにはできなかった。
  
 その日の夜。
 エルフナルドが寝室を訪れたのは、いつもより遅い時間だった。
 もう半分眠っていたユリアのもとへ、静かにエルフナルドが入ってくる。
 
「ん……エルフナルド様?」
「すまない……。起こしてしまったか?」

 申し訳なさそうな、小さな声。
 
「いえ……私こそ……先に寝てしまい申し訳ありません」
 
 ユリアは目をこすりながら、エルフナルドを見上げた。
 
「気にしなくていい。おやすみ」
 
 そう言って、優しく頭を撫でる。
 そしていつものように、そっと口付けた。
 胸がじんわりと温かくなる。
 それなのに、唇が離れていくその瞬間、昼間読んだ小説の場面が脳裏をよぎった。

 ――……それだけ?

 もう少しだけ触れていてほしい。
 そう思ったのに、言葉にはできない。

 ユリアは小さく視線を伏せた。
 
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