響け!シャガのクレッシェンド
(この笑みの裏に、何か黒く深い感情が隠されてると疑ってしまう……)

しかし、その疑いを表に出すわけにはいかない。ジョセフは側から見たらただ話しかけているだけだ。幸い、表情を隠す術は貴族の世界のおかげでレオンハルトには身に付いている。

「ファスベンダー卿、お久しぶりですね」

レオンハルトは穏やかな表情を意識し、お辞儀をする。ジョセフは和やかに話しかけてきた。

「こんなところで会うなんて珍しいですな。もしかして、事務員の方とデートですか?」

ジョセフの目がリズに向けられる。リズは気まずそうに俯いた。レオンハルトはリズを隠すように彼女の前に立つ。

「デートではありませんよ。道案内を頼まれた彼女が戻って来るのが遅かったため、迎えに来ただけです」

「おや。そうでしたか!ここで会ったのも何かの縁ですし、どこかでコーヒーでも飲みますか?」

ジョセフがレオンハルトを見つめる。否、彼の目はレオンハルトの背後にいるリズに向けられていた。リズの震えた手がレオンハルトのスーツを掴む。
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