たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
たい焼きの頭としっぽ
人々の視界を遮るビルとビルの狭間で、無数の足音は慌ただしく過ぎ去っていく。そんな、どこか寂しく、閉鎖的な世界で生きようとしたこともある。でも、どうも私には似合わなかった。
人と人のつながりが賑やかさをつくる、下町の一角でずっと生きてきたから。
歴史と風格が残る建物と、筆書きで書かれた看板が肩と肩を隣り合わせる。まるで他所とは違う時間が流れているみたいに。その一部を為す、たい焼き屋「小濱堂」。
読み書きができないときから、この文字だけは自然と読めた。なんてったって私、小濱鈴子(こはまりんこ)は、たい焼き屋「小濱堂」の一人娘だからだ。
「たい焼き、二つください!」
「あいよっ!二つね〜、ちょうど新しいの焼き上がったところだよ」
サスペンダー付きのスクールスカートと二つ結びの髪を振り乱しながら帰ってきた私を、今日も威勢の良い父さんの掛け声と、待ち遠しそうに首を伸ばすお客さんが出迎えてくれる。
香ばしい香りが広がる店先にランドセルを放り投げ、息を切らしながら、いつものようによく通る声で挨拶をした。
「こんにちはっ!」
「あら、まぁ〜可愛いお嬢さんね?」
「でしょ〜?うちの一人娘なんですよ」
「父さん、拓真と遊んでくるから〜」
「あいよっ!暗くなる前には帰ってくるんだよ〜?」
会う人ほとんどが、初めて顔を合わせたも同然なのに、まるで何年の付き合いもあるかのようなやり取りが、どこを走っても見ることができる。
そんな活気に満ち溢れたこの町が大好きだった。
たくさんの大人に囲まれて育った私たちには、ビル街とこの町を分つようにして並べられた長い石段が、無邪気に駆け回れる唯一の場所だ。
それを見守るようにそびえたつ色付いた大きな木は、冷たい風に吹かれてゆらゆらと揺れている。そのせいで影が消えた石段の上には、たくさんの枝葉が一面に敷き詰められていた。
私はその中から、渾身の一本を探し出そうと、向かい風をものともしないでしゃがみこむ。いつもこうして、会いたいその子の声を待っている。
「おーいっ!」
しばらくすると、息を切らした大きな叫び声が聞こえてくる。まだ、混じり気のない透き通った男の子の声だ。
その声を聞いて、パッと明るくなった顔を上げると、私とちょうど同じ背丈くらいの、スクールズボンを履いた男の子が、肩を上下に動かしながら一直線に走ってくる。
走ってきた後でも、日本男児らしい、その美しい顔は綺麗なままだ。長く伸びた前髪さえも右寄りにきっちりと分けられているから、不思議といつも乱れていない。
「もーう!拓真!遅いよ〜」
「仕方ないだろ?俺、このあと出番だってのに、っ」
(そう言いながら、今日も走って来てくれたんだよね〜)
私は毎度聞かされる小言を遮るように、手に持つ枯れ枝を、か弱い力で振り下ろした。
「あっ、ぶない、なぁ」
しかし、いつの間にか、拓真も手に入れたらしい枯れ枝によって、今日も自信いっぱいの一撃は、簡単に受け止められてしまう。
(なんでっ……?)
「ねえ!これじゃ勝負にならないって、いつも言ってるじゃん!」
「勝負って……はははっ……俺が鈴子に負けるわけないだろ?」
(また笑った。絶対無理って思ってるでしょ)
「はあ〜?そんなのやってみないとわかんないじゃん!良い?次は本気でやってよ?」
「……はいはい。でも、五分だけだからな?」
私が何度短い剣を振りかざしても、拓真は絶対に同じことをしようとはしない。ただ、優しく見守るように笑いながら、どんな無茶も黙って受け止めてくれる。
そして私は、そんな拓真の笑顔をただ見ていたいだけだった。
人と人のつながりが賑やかさをつくる、下町の一角でずっと生きてきたから。
歴史と風格が残る建物と、筆書きで書かれた看板が肩と肩を隣り合わせる。まるで他所とは違う時間が流れているみたいに。その一部を為す、たい焼き屋「小濱堂」。
読み書きができないときから、この文字だけは自然と読めた。なんてったって私、小濱鈴子(こはまりんこ)は、たい焼き屋「小濱堂」の一人娘だからだ。
「たい焼き、二つください!」
「あいよっ!二つね〜、ちょうど新しいの焼き上がったところだよ」
サスペンダー付きのスクールスカートと二つ結びの髪を振り乱しながら帰ってきた私を、今日も威勢の良い父さんの掛け声と、待ち遠しそうに首を伸ばすお客さんが出迎えてくれる。
香ばしい香りが広がる店先にランドセルを放り投げ、息を切らしながら、いつものようによく通る声で挨拶をした。
「こんにちはっ!」
「あら、まぁ〜可愛いお嬢さんね?」
「でしょ〜?うちの一人娘なんですよ」
「父さん、拓真と遊んでくるから〜」
「あいよっ!暗くなる前には帰ってくるんだよ〜?」
会う人ほとんどが、初めて顔を合わせたも同然なのに、まるで何年の付き合いもあるかのようなやり取りが、どこを走っても見ることができる。
そんな活気に満ち溢れたこの町が大好きだった。
たくさんの大人に囲まれて育った私たちには、ビル街とこの町を分つようにして並べられた長い石段が、無邪気に駆け回れる唯一の場所だ。
それを見守るようにそびえたつ色付いた大きな木は、冷たい風に吹かれてゆらゆらと揺れている。そのせいで影が消えた石段の上には、たくさんの枝葉が一面に敷き詰められていた。
私はその中から、渾身の一本を探し出そうと、向かい風をものともしないでしゃがみこむ。いつもこうして、会いたいその子の声を待っている。
「おーいっ!」
しばらくすると、息を切らした大きな叫び声が聞こえてくる。まだ、混じり気のない透き通った男の子の声だ。
その声を聞いて、パッと明るくなった顔を上げると、私とちょうど同じ背丈くらいの、スクールズボンを履いた男の子が、肩を上下に動かしながら一直線に走ってくる。
走ってきた後でも、日本男児らしい、その美しい顔は綺麗なままだ。長く伸びた前髪さえも右寄りにきっちりと分けられているから、不思議といつも乱れていない。
「もーう!拓真!遅いよ〜」
「仕方ないだろ?俺、このあと出番だってのに、っ」
(そう言いながら、今日も走って来てくれたんだよね〜)
私は毎度聞かされる小言を遮るように、手に持つ枯れ枝を、か弱い力で振り下ろした。
「あっ、ぶない、なぁ」
しかし、いつの間にか、拓真も手に入れたらしい枯れ枝によって、今日も自信いっぱいの一撃は、簡単に受け止められてしまう。
(なんでっ……?)
「ねえ!これじゃ勝負にならないって、いつも言ってるじゃん!」
「勝負って……はははっ……俺が鈴子に負けるわけないだろ?」
(また笑った。絶対無理って思ってるでしょ)
「はあ〜?そんなのやってみないとわかんないじゃん!良い?次は本気でやってよ?」
「……はいはい。でも、五分だけだからな?」
私が何度短い剣を振りかざしても、拓真は絶対に同じことをしようとはしない。ただ、優しく見守るように笑いながら、どんな無茶も黙って受け止めてくれる。
そして私は、そんな拓真の笑顔をただ見ていたいだけだった。