たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
私の身体から、水分って水分がなくなった。
目は、シパシパ。
顔だって、パサパサだ。

でも、声はちゃんと、戻ってきた。
不安も、落ち込みもない。
そこにあるのは、ブレない信念だけ。

「私、行かなきゃ……」
「……もう、いいのか?」

自分の足で、しっかりと立ち上がった。
でも、まだ、顔は俯いたまま。

「うん。ありがとう。なんか、ちょっと、スッキリしたかも」
「そうか。よかった」

あんな無茶苦茶な泣き方をした後だから。
妙に、照れくさくて。

すると、両頬に拓真の手のひらが。
私の顔を、ゆっくりと、引き上げた。

もう、どっちも冷たくなかった。

すぐ、拓真を見つけた。
拓真が、低くなって、私に合わせてくれているから。

「おまじない、かけてやろうか?」
「……おまじない?」

私は、キョトンとした顔で、首を傾げた。

拓真の目が、やや下を向いた。

そのまま、ゆっくり私に近づいてきた。
目は、ずっと一点を見つめたまま。

拓真のざらりとした唇が、私の唇に当てられた。

初めて、分かった。
今日は、私の唇まで、ざらついていたんだって。

最後に吸った息が、すべてなくなるまで。
そんなことを考えていたら、あっという間に終わっちゃう。たった一度だけの、口づけ。

すごくささやかだけれど、拓真の唇が、私の身体にちゃんとあった。

離れても、そう。

まだ、両頬には拓真の手のひらがある。
まだ、前を向けば、ずっと彼がいる。

いつのまにか、すべてを、忘れられていた。
目の前の人のことで、頭がいっぱいで。

「どうだ?笑えるか?」

伏目がちになっちゃう。
ふふっ、と声に出して笑っちゃう。

気恥ずかしくてたまらなくて。

「……笑うって、そりゃ」
「うん。いい笑顔だ」

拓真も、おんなじ顔をしていた。
ふわっとした笑顔だ。
口角も、頬も、すっかり上がって。

「じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」


< 103 / 157 >

この作品をシェア

pagetop