たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
冷たい風が、ヒューと音まで立てている。
顎のラインで切り揃えた前髪が、よく顔前に飛んでくるから、何度も何度も直さなくちゃいけない。

今日は、武家屋敷のお庭で撮影だ。
庭と言っても、そこには白い砂しかない。

裃姿のお役人が、窓のない縁側で、胡坐を描いている。
冗談の一つも許されない。厳しい顔だ。

その視線の先では、与助が握り拳をつくって、膝まづいている。

膝を守るものは、藁一枚。与助の膝は、痛々しいほど、真っ赤に染まっている。

そして、帯に刀を差し込んだ、羽織袴の男五人が、しっかりと目を光らせて、その近くに立っている。

「あやつはどこにおる?」

声を荒げるわけでもない。
お役人は、ただ静かに問いかけた。

でも、与助は、ずっと黙ったまま。
顔すら見せない。

すると、お役人は、帯から扇子を引き抜いた。
その扇子で、自分の手のひらを叩き始めた。

「パンっ、パンっ」

一つ。また一つ。

その音を聞くたび、緊張と恐怖で、私の心臓も飛び上がる。

でも、しばらくすると、手を止めた。
音も止まった。

「ドンっ」

今度は、その扇子を縦にして、床を突いた。
その音に驚いて、私の身体はビクッと跳ねた。

また、何の音もない静けさが戻ってくる。

そして、あの声だ。
興奮するわけでもない。
ただ、粛々と。

「もういい。さっさと、始末してしまえ」

五人の家臣が、刀の柄に手をかけた。
ザラザラと音を立てながら、歩き出した。

与助を囲った。

一斉に鞘から、刀を抜き取った。
ぎらりと光る刃先を、与助に突きつけた。

「キーン」

耳障りな音がいくつも聞こえる。

でも、与助は、ずっと、俯いたまま。
小さな指で、足をギュッとつねっていた。
まるで、恐怖に耐えるように。

呼吸の音一つ立ててはいけない。
あまりに静かで、そう思わせられる。
ついつい息を止めてしまう。

「うっ!!」

でも、突然、門の向こうから、うめき声が。
お役人は、危険を感じるように、ドタドタと立ち上がった。 

「何者じゃ!?」

明らかに動揺した声。

いくつもの刃先も、もう湊を向いていない。
全てが、門に向いている。

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