たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「バーン!!」

大きな音を立てながら、ぴったりくっついていた門扉が、二枚に分かれた。

全員が、一歩、後ろに下がった。

平次が、刀の柄に手をかけ、立っていたから。
顔にも着物にも、血がベッタリとついている。

殺しの目。
その目は、正面のお役人だけを、狙っている。

まだ、誰も動かない。
足がすくんで。

お役人は、堪らず、声を張り上げた。

「貴様ら、何をしとる、はようかかれ!!」

すると、一人の男が、刀を持ったまま、走っていった。残りも、その後ろに続いた。

平次は、鞘から刀を抜き取った。

もう、平次の目の前に、人が来ていた。
だから、抜き取ったばかりの刀を、右から左に振るった。

「うっ」

平次の視界から、人が消えた。
うめき声を上げながら。

そうやって。
一人、また一人と。

やっと、人が向かってこなくなった。
声が、音が、すべて消えた。

平次は、刀を上げたまま。
足元には、血を流した人が、何人も倒れている。

そして、またお役人を、ギロリと見た。

平次は、刃先を下にした。
刃を持ったまま、歩き出した。

でも、途中で止まった。

与助を、脇に抱えた。

回れ右をして、横たわる死体の間を、鮮やかに駆け抜けていく。

これで、何度目だろうか。
もうわからなくなるほど、同じシーンを何度も撮っている。

そして、一回撮り終えると、たくさんの背中がモニターの周りに集まってくる。
この角度がどうとか、ここの手合わせがどうとか、意見を出し合っている。

(あれっ……おかしいなあ……)

でも、そんな背中が急に歪んで見え始めた。

私は頭を抱えた。
身体もよろめいた。

でも、倒れることはなかった。
誰かに受け止められた。

「大丈夫ですか?」

顔を上げると、そこには根元マネージャーが。

ちょっと視線を逸らすと、小仁監督や拓真まで、こちらを向いていた。

(ダメだ……時間がもったいない……)

もう、身体は思うように動かない。
でも、ちゃんと自分の足で立ってみせた。

すぐさま、歩き出していた。
振り向きながら、根元さんにこう伝えていた。

「あの……私、ちょっと部屋にいるので。何かあったら、連絡ください」
「はい!わかりました!」

部屋に戻れた。

もう身体を起こしていることも辛かった。

だから、真っ先に布団を敷いていた。
バタンとその上に倒れた。

身体はガタガタと震える。
寒い。寒すぎる。
だから、ふかふかの布団を被せた。

額を触った。
やっぱり、寒いのに、熱かった。

(やっばいな……撮影も佳境なのに……)

ボーっとした頭で、悶々と、そんなことを考える。

せめて、これだけはしておきたかった。

ジーンズのポケットからスマホを取り出した。

もうスマホの文字もぼんやりとしか見えない。

でも、指は勝手に動いていた。

「小濱です。今日だけ湊を預かってください。よろしくお願いします」

送信ボタンを押した。
バタンと、力が抜けた。

それが、私の最後の記憶だ。


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