たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
来ないでっ!
「んっ、ん……」

目をゆっくりと開いた。
何も見えない。

(夜か……)

一瞬で、そう判断していた。

だから、また目を瞑った。
そのとき。

枕元がブルブルと揺れた。

だから、目を瞑ったまま、横向きになった。
布団の中から手を出した。
スマホに触った。

やっぱり、すごく時間がかかる。

「ん……はい」

一言一言も、めちゃくちゃ遅い。
声も、若干掠れていた。

相手の声は早かった。
すぐ聞こえてきた。

「おまっ、はぁ……どれだけ心配したか分かってるか?……電話にも出やしない、部屋へ行っても鍵は閉まってるしだな……」

焦ってるような、ちょっと怒ってるような。
早口だし、声も大きい。

(拓真か……もっと、ゆっくり話してよ……)

その声に、頭がキーンと痛んだ。
私は、思わず顔を歪めた。
頭を抱えた。

ようやく静かになった。

痛みも少し収まった。
だから、聞いた。

「……湊は?」
「はあ?お前、こんなときまで……」
「……湊は?」

拓真の声が、また少しの間、聞こえなくなった。

早口じゃなくなった。
声も小さくなった。

「……心配すんな。もう寝た」

(そっか……良かったぁ……)

私は、ホッとした。
だから、またすぐにでも眠りにつきたかった。
もう一度、仰向けになった。

でも、拓真の声はまだ聞こえる。

「おい?おい?」
「……何?」

「なんかいるもんないか?」
「絶対、来ないでよ」

頭が動いていなくったって、その言葉は、すぐに出てきた。

拓真に、湊に、何かあっては、絶対ダメだ。

「飲みもんだけでも」
「本当に良いから」
「そう言ってもな……」

なのに、拓真は、まだ話しかけてくる。
まだ、話してる。

だから、私は言葉を被せた。

「来たら、終わりだからね。私たち」

拓真の声は、もう聞こえない。
さっきより、ずっと長い。

違う。

そうじゃない……

目をゆっくりと開いた。
もう一度、横向きになろうとした。

そのとき。

「………ああ。望むところだ」

そう、バッサリ言い返された。

それっきり。

もう、ツーツー音しか聞こえない。
電話が、切れた。

スマホの画面も真っ暗になった。
また、何も見えなくなった。

手遅れだ。

はぁ……と、大きく息を吐いた。

(何やってんだろ、私……)

目を瞑った。

布団の中に篭り込んだ。
自分の身体を抱きしめた。

また、眠気が襲ってくる。
すべてが遠くなっていく。

でも、襖の向こうから、ガサゴソと、物音が聞こえるような?

(ほんとに、来たの……?)

物音はぴたりと止まった。

かと思えば、人の足音が、だんだん遠くなる。小さくなる。

きっと、これは悪夢だ。
そう思い込ませながら、目尻から涙が落ちた。頬にかけて、ツーっと筋を作った。

それから数時間は、すべてを忘れていられた。

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