たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
橙の明かりで、空はすっかり、茜色に染まっている。目の前の碧色の大海原には、そんな空の色がしっかり移っている。

海沿いは、やっぱり平地より、風が冷たい。
威力も強い。

だから、息を吸うたび、潮の香りが鼻を抜ける。
ザブーン、ザブーン、と音を立てながら、白波まで高く打ち上がっている。

砂浜の上の待機用テントもガタガタ揺れている。

たくさんの背中から、すぐ湊を見つけた。

ザクザクと砂を踏みながら、私は歩き始めた。
ずっと、冷えた手のひらを、擦り合わせている。
指も、動かしづらい。
肌も、痛い。

そして、待機用テントの中に。

根元マネージャーが、メモを取りながら、通り過ぎていった。

かと思いきや……
止まった。

バックしてきた。

私の顔を見ながら。
興奮した様子で。

「小濱さん!大丈夫ですか?」

ここまで、気を遣わせていたとは。
申し訳なさで、笑顔も引き攣る。

「はい、もうすっかり……!すみません……ご迷惑おかけして」
「いえ、そんな!お元気なら、良かったです!」

根元マネージャーは、にこやかにそう言うと、またメモを見ながら、手を動かしながら、歩いていく。

だから、私は、湊の背中に視線を移した。
かかとを浮かせた。

でも、隣から、新しい声が。 

「何?鈴子、なんかあったの?」

私は、パッと振り向いた。
宇佐見さんだ。

仕事の合間を縫って、急遽、この日のために東京から、駆けつけてくれた。

私は、かかとをおろした。
また、苦々しく笑いながら、すべてを話した。

「ああ……ちょっと、熱出しちゃって」
「どれ?見せてみなさい」

すると、右手が、私の額にドーン。
私は、思わず声を出しながら、仰け反った。

「っお……」

宇佐見さんは、自分の額も一緒に触って、どこかを見上げながら、ずっと首を傾げている。

「んーー」 

私は、ただ、じっとしているしかなかった。

やっと。
宇佐見さんは、うなづき始めた。
納得、したらしい。

「ほんとね。私の方がよっぽど熱い」

ようやく、手が離れた。

「もーう。だから、そう言ってるじゃないですか……」

私は、ぶつぶつとぼやきながら、ニットのよれを両手で伸ばす。

「まあ、何はともわれ、良かったんじゃない?最後まで見届けられたんだから」

「……えっ?」

パッと、顔を上げた。

宇佐見さんは、もう私を見てもいない。
腕を組んで、前だけを向いている。

その視線の先には、湊の背中があった。
大人用の椅子に、足を浮かせて座りながら、最後のシーンを待っている。

「ああ。そうですねっ。はい。それは、もう本当に」

私も、その背中を見ながら、うなづいた。

でも、私のうなづきは、すぐにぴたりと止まった。

湊が、ちょっとおかしい。
いや、絶対におかしい。

ここに来てから、大きくなる一方だと思っていた背中が、今日は本当に小さく見えた。

(ん?昨日、何かあった……?)


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