たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真は、はぁ……と、肩を落とした。
ポケットに手を突っ込んで、下を向いたまま。

一歩
また、一歩と。
近づいてくる。

私の前で止まった。

二つの手のひらが、私の腰に添えられた。

胸と胸を、ぴったりくっつけられる。
拓真の肩に、ポスっと口がぶつかる。

身動きが取れない。

でも、私はまだ諦めきれない。

拓真の肩から目を出して、キョロキョロ、辺りを見回している。

「はぁ……ったく。悔しいな。俺はこいつに、負けたってことか?」

拓真の言葉が、耳のすぐそばから、聞こえてくる。

「じゃあ、もう、つくるしかないな。これから。落としても、有り余るくらい」
「……えっ?何を?」

目をキョロキョロさせながら。
私は、拓真と話す。

「何って。届けに、式に、名前だってあるだろう」

目の動きが、ぴたりと止まった。
顔を、スーッと横に向けた。

拓真の顔も、こちらを向いていた。
目が合う。

「あいつの演技。お前だって見ただろ?」

私は、固まった。
まだ、頭が追いついていない。
混乱している。

「どう見たってあれは、ゴシップも霞むくらいの、名演だと思うぞ?」
「いや……私、昨日……」

丸々とした目で見つめながら、言葉を漏らした。

すると、拓真も、一瞬、目を丸くした。
でも、すぐ俯いて、ふふっと笑いを漏らした。

絶対に、笑うところじゃない。
だから、私は眉を顰めた。

でも、拓真はまだ笑ってる。

やっと顔を上げた。
やれやれって感じで、笑いながら。

「あのな。ここに来てから、どれだけ、お前の声、聞いてきたと思ってんだ?お前の考えそうなことくらい、大体想像つくって」

もう私の中は、拓真のことだけ。
ずっと笑ってる拓真だけ、見てしまう。

でも、その下がった眉が、縮んだ目元が。
今日はやけに苦しい。

私は、もっと眉を顰める。

こんなにも言葉って、人の気持ちを簡単に、変えてしまうのに。

あんなことを言った自分が、ますます、ひどい人間に感じられるから。

拓真の肩に、ゴンと、額を落とした。
はぁ……と、ため息をついた。

目をギュッと瞑った。

へこんだ声で、とにかく謝った。

「ほんっと、ごめん……私、拓真のこと振り回してばっかりだ」

そのとき。

ドアの向こうから、いくつかの笑い声が、聞こえてくる。
どんどん近づいてくる。

私は、すぐに、その目をかっ開いた。
顔を上げた。

(……えっ?誰か来る!?)

くるっと、横を向いた。
拓真は、なぜかドアの向こうを見つめたまま。

とにかく、どこかに隠れないと。

私は、一歩下がろうとした。
そのとき。

背中から、腕が離れた。

すぐ、右手を握られた。

手のひらが重なっている。
手の甲に、拓真の指がグッと入り込んでいる。

拓真は、引っ張る。

私は、よろめく。
思わずこけそうになる。

「ちょっ、拓真……」

パッと顔を上げた。

「良いから、ついてこい」

目が合ったのは、一瞬だけ。

拓真は、すぐ背を向けた。
そのまま、走り出した。

気づけば、私も走っていた。

拓真の手を、握りながら。

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