たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
うさぎのププちゃん
たった五分。世の恋人たちなら、とても短く感じるのかもしれない。もちろん数字だけ見れば、それを二年間繰り返したとて、たった二日、同じ時間を過ごしたことにしかならない。

でも、どんな小さな時間でも積み重ねていけば、それもまた満ち足りた日常になることを、私はとっくに知っていた。

やっと気づけた、最も願う時間だからこそ、この時間が続けばもう他に何も大きなものはいらない。この日までは、心からそう思えていた。

「今日、一気にたい焼き100個、注文入ってね?母さんと私でもう手真っ赤にしながら、熱いのなんので……」
「はははっ……楽しそう……」

(……た、楽しそう?今日は、なんだか返ってくる言葉が違う気が……)

「……た、拓真?」
「あっ、ごめんごめん。いや、懐かしいなあって……」

受話器の向こうに、それまでとは違う重い何かを感じて、あれほど矢継ぎ早に話しかけていた私も、次の言葉を待つことしかできなくなる。

「鈴子?」
「……ん?」

「俺、最近よく思うんだよ。今話してる鈴子は、どんな顔してんのかな……って。鈴子は思わない?」

やっぱり笑い交じりではない真剣な話し方に、私もしっかりと向き合わざるを得なくなる。

(思ったって、そんなのできっこないし……)

「来る?僕のとこ」
「……えっ?」

私を形づくったこの町が、一番居心地が良かったし、あえて出ようとも思わなかった。でも「断ろう」とか「引き返そう」とか、そんな選択肢は、どこを探してもなかった。

私は、また昔みたいに背伸びをするように、髪を下ろして、唇ははっきりとピンクに縁取る。それに、小綺麗なキャミソールワンピースを着て、キラキラとしたサンダルまで履いて、少しでも外の世界に似合う人間になろうとしている。

それも無理してるとかじゃなくて、とてもワクワクした気持ちで……。
(これが、母さんの言う、新しい発見ってやつ…?)

爛々とした太陽が澄んだ空から照りつける、とある夏の日。拓真が教えてくれた居場所は、そんな日差しさえ遮られた裏通りにある、レンガづくりの小さなホテルだった。

ガラス張りのオートドアの向こうは、しっかりと冷え込んでいて、暑さに耐えた身体には最高のオアシスだった。

ただ、人々が身を寄せる場所のはずなのに、人目に触れない路地よりも、もっと静けさは強かった。ほのかな明かりしか灯っていなくて、たった一人のフロントマンも言葉を発することはない。

私はその静けさに溶け込むように、存在を消してエレベーターに乗り込んだ。

実際のところ、大人を装った見た目とは対照的に、私の心臓は飛び出そうなほど暴れ回っていたけれど……。

(えーっと、拓真は三階にいるんだよね??このボタン押したら、すぐ会えるって、ことじゃんね??……)

そんな暴れ回る心と格闘しているうちに、エレベータードアが勝手に開き、見送られたはずのフロントマンとまた目が合う。

「すみませーん」

私はぺこりと会釈をするけれど、やっぱりその人の声は聞けない。

(うーん…慣れないな〜。このどこへ行っても、よそよそしい感じ。早く、拓真に会いに行こうっと)

私はエレベータードアが、完全に閉まり切るのを待たないうちに、拓真の元へと向かうボタンを押した。

エレベータードアに背を向けながら、大きな鏡を見て、汗で乱れた髪や服を整えていく。
(髪は?崩れてない?服は?変じゃないよね?)
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