たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
想定していた通りだ。

こうなるって、最初から分かってた。

それでも、拓真が帰る場所になるなら、大丈夫だって、へっちゃらだって、思ってたのに。

今、私は拓真を見ていない。
下を向いてる。

そのとき。
私の腰から、拓真の手が離れた。

私は、顔を上げた。

拓真を見れたのは一瞬。

すぐ、頭に手のひらが。

力をかけられた。
拓真の肩に、顔がポスっと当たった。

頭から、ポンポンと、手のひらを感じる。

拓真の肩に、口を埋めながら。
じっと前を見つめることしかできない。

私は、もう俯いていない。

「いつからなの?」

拓真の手が、驚いたように止まった。

「えっ?」

私も、顔をパッと横に向けた。

もう落胆した声じゃない。
いつもの、厳しくて優しい。
宇佐見さんの声だったから。

「いつからだって、聞いてるの」
「ああ……先月?いや、十八ん時?ん?どっちだ?」

拓真は、私の顔を見てくる。

(十八!?それは、さすがに、話がややこしくなるっ……!)

宇佐見さんが、何と言うか。
私は、またハラハラした。

だから、素直にうなづけない。
苦笑いを浮かべて、首を傾ける。

「十八!?じゃあ、あのとき、もうそういう仲だったってわけ!?」

(ほらーー……)

宇佐見さんは、さぞかし驚嘆していた。
取り乱し具合が、電話越しにも伝わってくる。

私は、肩身が狭くてたまらないのに。

拓真は、動じることもなく、前を向く。
堂々と、こう言う。

「少なからず、俺は好きだったな」
(な、な……)

私は、もう何も言えなくなった。

また、肩に口を埋めた。
頬が上がった。
唇を噛み締めた。

すっかり熱は下がったはずなのに。
カーっと体温が上がる。

宇佐見さんのからかう声まで聞こえる。

「あらら。あんたも、一丁前に惚気るのね」
「そりゃあ、そうだろ。惚れた女のことなんだから」

拓真には、もう恥じらいも何もないらしい。

「きゃー!何よ、こっちまで照れるじゃないの」

心乱されてるのは、私と宇佐見さんだけ。

宇佐見さんの、黄色い歓声を聞きながら。
頬がもっと上がった。
唇をもっと噛み締めた。

でも、その歓声はピタリと止まった。

「あっ、すみません……」

誰かが、近くを通ったらしい。
肩身が狭そうに、そう謝る。

少しの間、宇佐見さんの声が消えた。

そして、また、聞こえてくる。
もう、ヒソヒソと遠慮気味の声。

「それで、何?急に報告してくるってことは、外でパパラッチにでも遭遇したの?」
「まさか、そんなわけないだろ。まだ、デートもできてないんだから。ただ、既成事実をだな」

「ちょっと!あんたたち、デートもしてないの!?」

宇佐見さんが、言葉を被せる。
なぜか、とてつもなく文句ありげに。

「ああ。そうだが」 

でも、拓真は、何か問題が?と言わんばかりに、きっぱり言葉を返す。

すると、はぁ……と、宇佐見さんのため息が聞こえてくる。どうしたものか、って感じで。

「あんたねえ。仕事熱心なのは結構だけど、鈴子にちゃんと愛情伝えてるの?」

私は、とっさに振り向いた。
拓真も、こちらを向いた。

なぜか、拓真は答えない。

だから、私は目で伝えた。
(伝えてもらってるよ?)

でも、拓真は答えなかった。

「それは……本人に聞いてくれ……」

(えっ……?)

私は、心の準備も何もできてない。
なのに、耳にスマホが。

「鈴子?」

宇佐見さんの声が、うんと近くなる。

私は、ごくりと唾を飲んだ。
とにかく、声を出した。

「……はい」

今度は、どんな刃を刺されるのか。
あの女性の声が、蘇ってくる。

「はあ……」

宇佐見さんのため息が聞こえる。

でも、私はもう何も言わない。

拓真の首筋を見ながら。
ただ、全てをじっと受け止める。

帰る場所があるなら、何があっても、大丈夫だって。へっちゃらだって。

もう、知ってしまったから。

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