たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
ガラスの窓に映る広縁の椅子は、いつも片方しか埋まっていなかった。

今日もそうだ。

でも、全然寂しくない。
全然寒くない。

拓真が、また大きく足を広げて座ってる。
そして、片方の膝に私が乗っかっている。

あったかい。

机の上には、開封済みのビールやおつまみ。

飲んだり食べたりしながら、これからについて、あれやこれや話し合っていた。

「鈴子。明日、店あるだろ?」
「うん。あるある」

身を乗り出して、机に手を伸ばす。

「店閉めた後、ちょっと事務所来れるか」

掴んだものを口に入れながら、振り向いた。
拓真は、肘かけに両腕を乗せて、私を見ている。

「あっ、宇佐見さんからの呼び出し?」
「ああ。すっぱ抜かれる前に、ちゃんと手順を踏んでおきたくてな。お前の家族にも」

ごくりと飲み込んだ。

「うん。良いけど……」
(家族……ねえ……)

もう口の中には何もない。
でも、言葉に詰まる。

「ん?どうかしたか?」

聞けない。
どうしても面と向かっては、聞きにくかった。

だから、顔を背けた。
また、机に手を伸ばした。

そして、それとなーく。

「いやー……拓真は、父さんと話しにくいのかなーって」
「ん?どうしてだ?」

掴んだものを口に入れる。
モゴモゴと話す。

「だって、昔っから敬語だしさ」
「そりゃあ……」

拓真の言葉が止まった。

私は、ごくりと飲み込んだ。
パッと振り向いた。

拓真は、前を向いたまま。

目も合わせない。
何も言わない。

(き、気になる……)

私は、たまらず拓真の身体を揺さぶった。

「え〜?何?何?」

すると拓真は、こっちを向いた。

私は手を止める。
負けじと見つめ返す。

結局、拓真が折れた。

はぁ……と、肩を落とした。
缶ビールに手を伸ばした。

グビッと喉に通した。

私は、その横顔をじっと見ている。

ぷはっ……と、一息ついた。

「だからっ、」

やっと、こっちを見た。

「いつか、嫁にするって思ってたんだから、緊張だってするだろう」

拓真は、ぶわーーと言葉を走らせた。

私は、一瞬目を丸くした。
でも、またすぐニヤけた。

だって、何も困ることはない。
ただ、嬉しいだけの理由だったから。

「へえー、そんな昔から好きだったんだ。私のこと」
「なんだ?お前は、違うのか?」

拓真が、拗ねている。
私の言葉を、待って。

そりゃあ、デレデレ笑っちゃう。

恥ずかしさとか、じゃない。
ただ、嬉しいから。

「んーん、私も好きだった」

そう言うと、拓真もにんまり笑う。

笑ったまま。
うーんと、声に出しながら。
伸ばした体を、後ろに倒した。

天井を見上げながら、しみじみとこう言う。

「俺も。あいつに感謝しなきゃなー」

どんなときも、私たちの中にずっといる、あの子のことだって。

すぐに、分かった。

「ん?あいつって、湊のこと?」
「ああ。こうして、お前と、一緒に生きていけるんだから」



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