たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真は、苦しげに声を振り絞る。

「鈴子?」
「……ん?」 

でも、私はずっと微笑んだまま。

「おそらく、これが俺らの生活になるのは、半年先だ」
「うん」
「もう少し、もう少しだけ、待ってくれ」

拓真の言葉が止まった。

だから、私は、拓真の頬に両手を乗せた。
いつもしてもらってるみたいに。

にこりと笑いながら、言ってみせた。

「待つに決まってるじゃん。これから、ずーっと帰る場所になるんだから」

でも、やっぱり。
拓真は何も言ってこない。
針が、カチ、カチと進む。

とうとう、私の頬から拓真の手が離れた。

でも、すぐ、頭に、背中に、手のひらが。
グッと力をかける。

拓真の首筋に、顔が埋まる。

(あーあ……)

私の笑顔も消えた。

拓真は、いま、何を考えてるんだろう。

所詮、人と人だ。
いくら分かち合えたとしても、その人のすべてを、背負うことはできない。

最後に残るのは、やっぱり一人だ。
その事実は、どうやったって変えられない。

首に手を回す。
ギュッと力を込める。

鼻先が埋まる。
拓真の落ち着く香りを知る。
拓真のあったかい温度を知る。

やっぱり、気持ちまでは分からない。

なぜか、そばにいるのに。
一人の寂しさを感じた。

そのとき。

「ああ、そうだな。お前の言う通りだ」

拓真の声が聞こえた。

声が微笑んでいた。
もう、苦しそうじゃない。
それは、私にも分かった。

良かった。
だから、もう私も悲しまない。

拓真が笑えば、私も笑える。

拓真の膝を跨いだ。
背中に、手を回した。
力いっぱい抱きしめた。

「ん?どうした?」

拓真の声が、耳のそばにある。
多分、こっちを向いてる。

「ただ、こうしたい気分なの」

だから、心のままにちゃんと伝える。
言葉にしないと、分からないこともあるから。

良かった。

伝わったみたいだ。

頭の、背中の、手のひらに力がかかる。
拓真の首筋に深く埋まる。

だから、私も。
二つの腕に、ギュッと力を込める。

何も話さない。
一ミリも動かない。
何もしない時間。
ただ、じっとそのまま。

時計の針が一つ、また一つ。
時間は、確かに進んでる。

でも、私たちは進んでない気がする。
だって、ずっと変わらないから。

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