たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「うっ、うっ……」

突然、父さんの泣き声が、聞こえた。
私は、パッと振り返った。

父さんが、目頭を抑えてる。
肩も小刻みに上下させながら。

「あらー、小濱父、泣いてるの?」

キッチンから、呑気な声が聞こえてくる。
宇佐見さんだ。

つい数秒前までの、固い空気が嘘みたい。

みんなも、たまらず笑い出す。

今じゃ、私も、拓真も、湊も、根元マネージャーも、みんな笑ってる。
父さんも、目頭を抑えながら、泣き笑い。

「いや、だってよ……鈴子は、昔っから、親にも泣き顔見せないやつでな。そんな子が、泣き顔見せれるやつができたって。そりゃあ、嬉しいに決まってるだろうがよ」

隠せてたと思ってたのに。
結局、すべてお見通しだったってわけで。

「もーう、父さんってば!」

照れくさい。すごく。
だから、私の笑いは苦々しくなる。

父さんは、膝に手を突く。
上腕で目をゴシゴシ。

しみじみと、こう言う。

「そうか、そうか……あん時のチビがな……」

私たちは、すぐさま顔を見合わせた。
お互いに、なんのことかさっぱり。

だから、首を傾げる。

また、父さんを見る。

「ん?何のこと?」

すると、父さんは、顔を上げた。
真っ赤な目で、私を見た。

でも、すぐ隣の湊を見下ろした。
湊も、くるっと振り向いた。
丸い目で、父さんを見上げた。

「そうそう。ちょうど、こんくらいの頃だ。鈴子は、おままごとにハマっててな。もちろん、拓真が旦那さんねー、なんつって」
「……えーっ?私が?まっさかー。そんな恥ずかしいこと」

私は笑いながら、否定する。

「へえー、そんなことが……」

でも、私の隣からそんな声が。

だから、父さんを見つめたまま。
また、拓真を肘で小突く。

「そんでな。そのとき、拓真がこっそり言いにきたんだ。鈴子を、お嫁さんにしてもいいですか、って」

(えっ……?)

でも、私は、パッと振り向いた。
拓真を見た。

「覚えてないか?」
「いや……全く」

拓真は、丸々とした目で、父さんを見つめてる。
これは本当に、覚えていないらしい。

だから、父さんも振り向いた。
拓真の顔を見た。

ははっ、と笑った。

「まあ……一人が覚えときゃ、それでいいよ」

笑ったまま。
腕を組んで、背にもたれた。

「とにかく。俺は誰がなんと言おうと、祝福するぞ。お前たちを」

父さんだけじゃない。

「私もよ」

宇佐見さんの声。

「私もです」

根元さんの声もする。

だから私は、一人一人の顔を見る。

みんな、うなづいてくれた。
みんな、微笑みかけてくれた。

好きな人が隣にいて、それだけで十分だ。
でも、心のどこかで、寂しさがある。

そんなことを思っていた私はもういない。

だって、拓真が、やっと私の生活になったんだから。これも、すべて湊の……

(……ん?あれ?)


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