たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
すると、湊も、ようやく顔を上げた。
真っ直ぐな目で、こう言われた。

「僕はもう、ねえさんの力になれない?」

(……湊)

私は、もうしゃがまない。

もう一度。
立ち上がる。

湊をひょいと持ち上げる。

「よいっしょ……」

拓真に、教わったから。

どんなに嬉しい言葉も、不安に負けちゃうことがあるって。だとしたら、不安になる度、何度も聞けば良いんだって。

だから、私は今日も、湊と顔を見合わせて。
ちゃんと伝える。

「あのねえ?湊。いつも言ってるでしょう。湊がいるから、ねえさんは頑張れるんだって」
「でも、父ちゃんがいるなら、もう僕は」

湊の言葉は、やけに早い。やけに強い。
私には、絶対にありえないこと。
でも、この子は本気で心配している。

だから、私はそんな心配しなくて、良いんだよって。ちゃんと、伝えるために。

いつものように。
前を向いて、歩き出した。
思いっきり明るく、話しかけた。

「ねえさんも、湊もさ、何も変わらなくていいんだよ。今まで通り、あの町で一緒に住んで。時々、拓真のおうちに、本読みに行って。ね?考えるだけで、楽しくない?」
「……夫婦なのに?大丈夫なの?」

私は、ぴたりと止まった。
パッと振り向いた。

湊は、ジーっと私を見ている。

でも、私はすぐに笑っていた。
本当に、心配ないから。

「夫婦だから、大丈夫なの」

そのとき。
後ろで、バーンっと、ガラス窓が音を出す。

私は、身体をびくつかせる。
たちまち笑顔も消える。

振り返る。

窓から顔を出すのは、宇佐見さん。

「ちょっと、鈴子!!まだ話は終わってないわよ!!」

物音一つない、夜の住宅街。

暗闇と、柔らかな光の中に、白い息が激しく吐き出される。叫び声が、こだまのように響く。

あんなにご機嫌だった宇佐見さんが、何がどうなって、こんなにご立腹なのか。
私には、さっぱりわからない。

でも、その迫力に、こう言わされていた。

「えっ、ああ、はい……」

すると、またバーンと音を立て、窓が閉まる。私は、また身体をびくつかせる。

宇佐見さんは、もういない。

でも、私はずっとその方向を見つめていた。
はぁ……と、白く長い息を、吐き出していた。

すると、耳のそばから湊の声が。

「ねえさん。大丈夫だよ。僕も、とーちゃんもついてるから」

私は、パッと振り向く。
湊は、もうにっこり笑ってる。

だから、私もまた、すぐ笑顔になれる。
明るくなれる。

「そうだね!行こっか!」
「うん!」

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