たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「……もし、もし?」
そんな不思議がる声に答えるように返ってきたのは、昨夜の私をジタバタとさせた、頭から離れないその人の声だった。
「……鈴子……ごめん」
拓真は今、一人ではない。
そして、その声は私を勇気づけてくれたときとはまるで違う、極限まで弱り切ったか細い声。
電話の向こうに広がる状況が、聞かなくてもなんとなくわかった。
(ああ……そういうことか……)
拓真の言葉を最後に、無言の時間が刻々と刻まれていく。
…………どうしよう。もう、これ以上、重い荷物は背負せちゃ、ダメだ。
大切な人が必死になって積み上げてきたものを、絶対に壊したくはない。
そんな終わりが来てしまったら、拓真と過ごしたすべての時間が、忌まわしいものになってしまう。
ずっと前からそう誓っていたはずなのに、閉じた瞼と吐き出す息は、弱々しく震えてしまう。
(………大丈夫、大丈夫だから)
彼が、私たちが、積み上げてきた時間は、きっと私さえ気丈に振る舞えば、あっけなく壊れることはない。
全部言わなくて良い。上辺だけのもので良い。
ただ、いつもみたいに前向きな言葉と、明るさだけ見せれば、それですべて上手くいくんだから。
それでもまだ、震える瞼は私の邪魔をするように閉じたままだ。断固として動かない口角、揺れ動く心が明け透けの呼吸音。
全身を使って拒否する自分に、無理矢理にも言うことを聞かせた。
「………もーう、バカだなあ。拓真が教えてくれたんだよ?好きにごめんとかないんだ、って」
「でも、約束」
「守ろうよ、二人で。後悔しなければ良いんだから。ただ、これまで通り生きていくの。何も終わりにはさせない。ね?」
慣れているはずなのに、今は、まるで自分の首を締めるみたいに、その言葉一つ一つが、はっきりと私の心を突き刺さしてくる。
その痛みに耐えるように、指が食い込みそうなほどの力で、受話器を必死に握りしめていた。
「……」
(なんで、何も言ってくれないの……)
私は今までそうしてきたみたいに、力の限り明るく振る舞ったつもりだった。でも、今日の拓真は笑いもしないし、それ以上の言葉もくれない。
もう私の空元気は、底を尽きていた。これ以上話したら、必死に作り上げた強がりも、簡単に崩れてしまう。
「朝の支度しようとしててさ、拓真から急に電話来るからびっくりしちゃったよー!じゃあ、切るからねー!」
「……うん、じゃあね」
私は心が崩壊してしまう前に、強く押し当てていた受話器を、耳から離した。
離れた場所から微かに聞こえた、最後の言葉。拓真も一緒になって、嘘をついてくれた。
(……止まっちゃ、いけないのに)
頭では分かっているのに、私は立ち止まるみたいに、受話器を持ったまま動けなくなる。
何か必死に括り付けていた糸が、ぷつりと解けるように、やるせない感情がブワッと溢れ出した。
だんだんと視界がぼやけて、自然と目から涙が溢れ落ちてくる。
唇を噛み締めながら、私はいつもみたいに、誰の視界にも入らない店の端っこで、静かに泣いた。
そして、ひとしきり後ろ向きな感情を流し切ると、変わらない朝が続くように店の厨房で泣き腫らした顔を洗い、何ごともなかったように小濱家へと戻る。
「母さん、間違い電話だった~」
「あら、いやね~」
私は声に出さない泣き方を知っている。泣くことが悪いことだとは決して思わない。
ただ私の役目は、来てくれたお客さんに幸せな気持ちになってもらうことだから。そこには私の感情なんて関係ないし、どんなに悲しくても辛くても、嘘でも明るさを絶やさなかった。
そしてお客さんの笑顔を見るたびに、まるでその笑顔すら自分のものみたいに思えてきて、いつしか心から笑えるようになってくる。
嘘の明るさが、気づかないうちに、本当の明るさになっている。
でも、今回の痛みはどれだけの笑顔にも治せない、あまりにも厄介なものだった。
そんな不思議がる声に答えるように返ってきたのは、昨夜の私をジタバタとさせた、頭から離れないその人の声だった。
「……鈴子……ごめん」
拓真は今、一人ではない。
そして、その声は私を勇気づけてくれたときとはまるで違う、極限まで弱り切ったか細い声。
電話の向こうに広がる状況が、聞かなくてもなんとなくわかった。
(ああ……そういうことか……)
拓真の言葉を最後に、無言の時間が刻々と刻まれていく。
…………どうしよう。もう、これ以上、重い荷物は背負せちゃ、ダメだ。
大切な人が必死になって積み上げてきたものを、絶対に壊したくはない。
そんな終わりが来てしまったら、拓真と過ごしたすべての時間が、忌まわしいものになってしまう。
ずっと前からそう誓っていたはずなのに、閉じた瞼と吐き出す息は、弱々しく震えてしまう。
(………大丈夫、大丈夫だから)
彼が、私たちが、積み上げてきた時間は、きっと私さえ気丈に振る舞えば、あっけなく壊れることはない。
全部言わなくて良い。上辺だけのもので良い。
ただ、いつもみたいに前向きな言葉と、明るさだけ見せれば、それですべて上手くいくんだから。
それでもまだ、震える瞼は私の邪魔をするように閉じたままだ。断固として動かない口角、揺れ動く心が明け透けの呼吸音。
全身を使って拒否する自分に、無理矢理にも言うことを聞かせた。
「………もーう、バカだなあ。拓真が教えてくれたんだよ?好きにごめんとかないんだ、って」
「でも、約束」
「守ろうよ、二人で。後悔しなければ良いんだから。ただ、これまで通り生きていくの。何も終わりにはさせない。ね?」
慣れているはずなのに、今は、まるで自分の首を締めるみたいに、その言葉一つ一つが、はっきりと私の心を突き刺さしてくる。
その痛みに耐えるように、指が食い込みそうなほどの力で、受話器を必死に握りしめていた。
「……」
(なんで、何も言ってくれないの……)
私は今までそうしてきたみたいに、力の限り明るく振る舞ったつもりだった。でも、今日の拓真は笑いもしないし、それ以上の言葉もくれない。
もう私の空元気は、底を尽きていた。これ以上話したら、必死に作り上げた強がりも、簡単に崩れてしまう。
「朝の支度しようとしててさ、拓真から急に電話来るからびっくりしちゃったよー!じゃあ、切るからねー!」
「……うん、じゃあね」
私は心が崩壊してしまう前に、強く押し当てていた受話器を、耳から離した。
離れた場所から微かに聞こえた、最後の言葉。拓真も一緒になって、嘘をついてくれた。
(……止まっちゃ、いけないのに)
頭では分かっているのに、私は立ち止まるみたいに、受話器を持ったまま動けなくなる。
何か必死に括り付けていた糸が、ぷつりと解けるように、やるせない感情がブワッと溢れ出した。
だんだんと視界がぼやけて、自然と目から涙が溢れ落ちてくる。
唇を噛み締めながら、私はいつもみたいに、誰の視界にも入らない店の端っこで、静かに泣いた。
そして、ひとしきり後ろ向きな感情を流し切ると、変わらない朝が続くように店の厨房で泣き腫らした顔を洗い、何ごともなかったように小濱家へと戻る。
「母さん、間違い電話だった~」
「あら、いやね~」
私は声に出さない泣き方を知っている。泣くことが悪いことだとは決して思わない。
ただ私の役目は、来てくれたお客さんに幸せな気持ちになってもらうことだから。そこには私の感情なんて関係ないし、どんなに悲しくても辛くても、嘘でも明るさを絶やさなかった。
そしてお客さんの笑顔を見るたびに、まるでその笑顔すら自分のものみたいに思えてきて、いつしか心から笑えるようになってくる。
嘘の明るさが、気づかないうちに、本当の明るさになっている。
でも、今回の痛みはどれだけの笑顔にも治せない、あまりにも厄介なものだった。