たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
私は、誰よりも早く起きていた父さんさえまだ眠りの中にいる時間から、顔を洗って動き出すようになった。
これが、一番好都合だったから。
自分の部屋で一晩中惜しげもなく泣き腫らした顔を、誰にも見られないで済む。何よりテレビに映るその人を見るだけで、今の私はいとも簡単に止まってしまう。
「鈴子!鈴子!」
「......ん?何?」
「あー!良かった!話、聞いてた?」
母さんが持っていたはずの箸は、すでに机に置かれ、心配の目でこちらを見てくる。
「.....鈴子!何かあるなら、この父さんにドンと言ってごらんなさい.............ごほっ......」
その隣に座る父さんは口に物が残ったまま、そう言って全力で胸を叩くから、父の威厳というものも豪快な咽せと共に、呆気なく崩れ落ちた。
どうやらいつも話題が尽きなかった食卓に、私のせいで珍しい沈黙が生まれていたらしい。
毎日のように食卓で顔を向き合わせてきた両親が、そんな分かりやすい異変を見逃すわけがなかった。
(いやいや......父さんはまずい.....だって、拓真と付き合って、しかも別れたなんて言ったら、絶対向こうまで乗り込んでいくでしょう......?)
「え〜?父さんは、まず自分のことを心配しなよ〜?」
考えたくもない想像を打ち消すように、自分の中にわずかに残っている明るさを全て集結させて、出来るだけ強気な態度に出た。
「そうよ!お父さん、しっかり!」
「お、おう!そうだな」
すると、母さんのその呼びかけにハッとしたのか、父さんまでも何か襟を正すように、一つ咳払いをして、机の上に箸を置いた。
ぴったりとくっついて座る二人は、手を膝に置きながら背筋を伸ばして、いつになくかしこまった表情をしている。
(まあ、ぴったりくっついているのは、いつものことだけど)
「実はな......」
賑やかさが戻ってきていたはずの我が家は、また静まり返り、私もその空気に合わせるように手に持つ箸を置いて、しっかりと聞き入るように姿勢を正した。
頭の中には一抹の不安がよぎる。
(え?何?もうこれ以上、耳の痛い話だけは勘弁してよ......)
ドキドキしながら次の言葉を待っていると、二人は満面の笑みをこちらに見せながら、揃ってダブルピースをつくった。
「うちに!二人目が、来てくれました〜!」
そう声を重ねる二人は、いつになく嬉しそうで、まさに幸せいっぱいという感じだ。
身体をこわばらせていた緊張はふっと抜け、胸をホッと撫で下ろしながら、椅子の背にもたれかかる。
「何、そういうこと!?二人とも、急に怖い顔するからさ。ああー、もう、びっくりした~」
二人の笑顔につられて、私もこのときばかりは自然と笑顔がつくれていた。
その日からだ。我が家の様子が、一日、一日と目に見えるように、変化していったのは。
床に伏せることが多くなった母さんの空白をカバーするように、私は今まで以上に止まる時間をなくすようになった。
この世界に生まれ出てこようとする新しい命を両手を広げて歓迎するように、ベビー用品や小さな男の子用の洋服も、日に日に増えていく。
住み慣れた家であっても、どこか今までと違う日常が始まっていくみたいだった。
私だけ変わらない日常が続いていたら、足音を立てながら近づいてくる冬の気配も、きっと失った時間へ連れ去るものになっていただろう。
あの人がいつも眼差しを向ける本の表紙は、会うたびに装いを変えていたのに。
だから、変えようとしなくても変わっていく日常が、私にも救いだった。
これが、一番好都合だったから。
自分の部屋で一晩中惜しげもなく泣き腫らした顔を、誰にも見られないで済む。何よりテレビに映るその人を見るだけで、今の私はいとも簡単に止まってしまう。
「鈴子!鈴子!」
「......ん?何?」
「あー!良かった!話、聞いてた?」
母さんが持っていたはずの箸は、すでに机に置かれ、心配の目でこちらを見てくる。
「.....鈴子!何かあるなら、この父さんにドンと言ってごらんなさい.............ごほっ......」
その隣に座る父さんは口に物が残ったまま、そう言って全力で胸を叩くから、父の威厳というものも豪快な咽せと共に、呆気なく崩れ落ちた。
どうやらいつも話題が尽きなかった食卓に、私のせいで珍しい沈黙が生まれていたらしい。
毎日のように食卓で顔を向き合わせてきた両親が、そんな分かりやすい異変を見逃すわけがなかった。
(いやいや......父さんはまずい.....だって、拓真と付き合って、しかも別れたなんて言ったら、絶対向こうまで乗り込んでいくでしょう......?)
「え〜?父さんは、まず自分のことを心配しなよ〜?」
考えたくもない想像を打ち消すように、自分の中にわずかに残っている明るさを全て集結させて、出来るだけ強気な態度に出た。
「そうよ!お父さん、しっかり!」
「お、おう!そうだな」
すると、母さんのその呼びかけにハッとしたのか、父さんまでも何か襟を正すように、一つ咳払いをして、机の上に箸を置いた。
ぴったりとくっついて座る二人は、手を膝に置きながら背筋を伸ばして、いつになくかしこまった表情をしている。
(まあ、ぴったりくっついているのは、いつものことだけど)
「実はな......」
賑やかさが戻ってきていたはずの我が家は、また静まり返り、私もその空気に合わせるように手に持つ箸を置いて、しっかりと聞き入るように姿勢を正した。
頭の中には一抹の不安がよぎる。
(え?何?もうこれ以上、耳の痛い話だけは勘弁してよ......)
ドキドキしながら次の言葉を待っていると、二人は満面の笑みをこちらに見せながら、揃ってダブルピースをつくった。
「うちに!二人目が、来てくれました〜!」
そう声を重ねる二人は、いつになく嬉しそうで、まさに幸せいっぱいという感じだ。
身体をこわばらせていた緊張はふっと抜け、胸をホッと撫で下ろしながら、椅子の背にもたれかかる。
「何、そういうこと!?二人とも、急に怖い顔するからさ。ああー、もう、びっくりした~」
二人の笑顔につられて、私もこのときばかりは自然と笑顔がつくれていた。
その日からだ。我が家の様子が、一日、一日と目に見えるように、変化していったのは。
床に伏せることが多くなった母さんの空白をカバーするように、私は今まで以上に止まる時間をなくすようになった。
この世界に生まれ出てこようとする新しい命を両手を広げて歓迎するように、ベビー用品や小さな男の子用の洋服も、日に日に増えていく。
住み慣れた家であっても、どこか今までと違う日常が始まっていくみたいだった。
私だけ変わらない日常が続いていたら、足音を立てながら近づいてくる冬の気配も、きっと失った時間へ連れ去るものになっていただろう。
あの人がいつも眼差しを向ける本の表紙は、会うたびに装いを変えていたのに。
だから、変えようとしなくても変わっていく日常が、私にも救いだった。