たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
でも、私と目がぶつかり合うと、小走りでこちらへと向かってくる。
私も真似るように立ち上がると、湊をこの世界の何よりも大切に思う「一人の大人」として、深く頭を下げた。
「年中さんも、はじめ先生が担当なんですね。改めて、湊をよろしくお願いします」
「はい!しっかりとお預かりします!……って、あれ?小濱さん、お店の方は?」
「あっ!そうだ!じゃあ、私はこの辺で!」
はじめ先生もまた、私と同じこの町で育ったらしいが、ずっとまともに話したこともなかった。
それもそうだ。「この町」と一言でまとめてしまうが、いま必死になって走ってきたように、その広さは一言で言い切れないほど果てしない。
はじめ先生と話すようになったのは、湊がこの園に通い始めてから。
人一倍義理堅い父さんも、愛する湊が世話になってるんだと、はじめ先生をまるで自分の息子のように可愛がる。
相変わらずのいがくり頭で、自分のようなさっぱりとした短い髪が超好みなのだと、親指を立てながら熱弁してきた。
………何はともあれ、今年で三十になる私より、歳は五つも下だけれど、母さんが亡くなってから一人侘しく飲み明かすことが多かった父さんの、良き晩酌相手になってくれているようだ。
どうしても人手が足りなくなる週末には、よく店まで手伝いにもきてくれる。
私は今日も何事もなく続いていく日常に、胸をほっと撫で下ろしながら、また時間に追われるように必死にペダルを漕ぎ出す。
私が出来ることは、母さんにしてもらったことをただなぞるような、どう頑張っても真似ごとにしか過ぎない。
でも自分のことなんてどうでも良くなるくらい、大切な人たちの幸せを願ってやまないのは確かだ。
今晩も、湊はあぐらをかく父さんの隣で、正座をしながら食い入るように時代劇を見ている。
夕食後の我が家では、これが恒例の光景だ。
好きなテレビ番組はニュースに時代劇。好物はお煎餅や煮干しなどの乾き物。
我が弟ながらしっかりものな上に、なかなかに趣味が渋い。まるで良い歳をしたおじさんが、我が家に二人いるのではと勘違いしてしまうくらいに。
あと、湊は裏手にあるお寺の和尚さんにも、小さい頃から随分と気にかけてもらっている。最近では気づくとご厄介になっているなんてことも多い。本人いわく和尚さんとのお喋りは学びがたくさんあるそうだ。
台所に立ちながらそんな二人の背中を、時々振り返っては微笑ましく見守る。ささやかだけれど、わたしにとってはこれ以上ない幸せだ。
でも今日は背後から聞こえてくる声が、少し違っていた。
「ママぁ〜!このカレー、美味しいね!」
すっかり遠い昔の記憶になっていた、私が覚えた数少ない懐かしいセリフが、テレビから流れてくる。
(こ、このセリフは……!?まさか、っ……)
その声に耳をピクピクと反応させると、瞬間移動並の早さで二人の元に向かった。
「ちょっ!父さん!湊になんてものを見せてんの!」
「えっ?湊が鈴子の小さい頃、見たいって。な〜?」
「うん、そうだよ」
悪びれた感じを一つも出さずに、何かダメだった?みたいなおとぼけ顔で言ってくるあたり、さすがは父さんだ。
まんまと蚊帳の外にされてしまった私は、大人しく白旗をあげて仲間に入れてと言わんばかりに、湊を膝の上へと乗せた。
血のつながりを感じる、その丸々とした瞳は、初めて見る幼い姉をじっと目に映している。
「にしてもさ〜、父さん。もっと他のやつあるでしょ」
「いやあ?すまん、すまん」
いがくり頭をぽりぽりと掻きながら、まるで片手間みたいにそう謝ってくるその男……
(……ははーん。そういう態度ね。良いわよ。今日は久々に相手をしてあげようじゃないの)
また小競り合いでも始めようか。そう思ったとき、湊がぽつりとこう言った。
「これが、ねえさん?」
「えっ?あ?ん?そうそう。可愛いでしょ?」
「……?ねえさんは、今もかわいいよ?」
「えっ?かっ、か…?」
目を逸らしたくなるほどの記憶ばかりだが、湊はあまりにもキラキラした目で、私をじっと見上げてきた。
(なんだ、これ?尊すぎるが?幸せすぎるが?)
私も真似るように立ち上がると、湊をこの世界の何よりも大切に思う「一人の大人」として、深く頭を下げた。
「年中さんも、はじめ先生が担当なんですね。改めて、湊をよろしくお願いします」
「はい!しっかりとお預かりします!……って、あれ?小濱さん、お店の方は?」
「あっ!そうだ!じゃあ、私はこの辺で!」
はじめ先生もまた、私と同じこの町で育ったらしいが、ずっとまともに話したこともなかった。
それもそうだ。「この町」と一言でまとめてしまうが、いま必死になって走ってきたように、その広さは一言で言い切れないほど果てしない。
はじめ先生と話すようになったのは、湊がこの園に通い始めてから。
人一倍義理堅い父さんも、愛する湊が世話になってるんだと、はじめ先生をまるで自分の息子のように可愛がる。
相変わらずのいがくり頭で、自分のようなさっぱりとした短い髪が超好みなのだと、親指を立てながら熱弁してきた。
………何はともあれ、今年で三十になる私より、歳は五つも下だけれど、母さんが亡くなってから一人侘しく飲み明かすことが多かった父さんの、良き晩酌相手になってくれているようだ。
どうしても人手が足りなくなる週末には、よく店まで手伝いにもきてくれる。
私は今日も何事もなく続いていく日常に、胸をほっと撫で下ろしながら、また時間に追われるように必死にペダルを漕ぎ出す。
私が出来ることは、母さんにしてもらったことをただなぞるような、どう頑張っても真似ごとにしか過ぎない。
でも自分のことなんてどうでも良くなるくらい、大切な人たちの幸せを願ってやまないのは確かだ。
今晩も、湊はあぐらをかく父さんの隣で、正座をしながら食い入るように時代劇を見ている。
夕食後の我が家では、これが恒例の光景だ。
好きなテレビ番組はニュースに時代劇。好物はお煎餅や煮干しなどの乾き物。
我が弟ながらしっかりものな上に、なかなかに趣味が渋い。まるで良い歳をしたおじさんが、我が家に二人いるのではと勘違いしてしまうくらいに。
あと、湊は裏手にあるお寺の和尚さんにも、小さい頃から随分と気にかけてもらっている。最近では気づくとご厄介になっているなんてことも多い。本人いわく和尚さんとのお喋りは学びがたくさんあるそうだ。
台所に立ちながらそんな二人の背中を、時々振り返っては微笑ましく見守る。ささやかだけれど、わたしにとってはこれ以上ない幸せだ。
でも今日は背後から聞こえてくる声が、少し違っていた。
「ママぁ〜!このカレー、美味しいね!」
すっかり遠い昔の記憶になっていた、私が覚えた数少ない懐かしいセリフが、テレビから流れてくる。
(こ、このセリフは……!?まさか、っ……)
その声に耳をピクピクと反応させると、瞬間移動並の早さで二人の元に向かった。
「ちょっ!父さん!湊になんてものを見せてんの!」
「えっ?湊が鈴子の小さい頃、見たいって。な〜?」
「うん、そうだよ」
悪びれた感じを一つも出さずに、何かダメだった?みたいなおとぼけ顔で言ってくるあたり、さすがは父さんだ。
まんまと蚊帳の外にされてしまった私は、大人しく白旗をあげて仲間に入れてと言わんばかりに、湊を膝の上へと乗せた。
血のつながりを感じる、その丸々とした瞳は、初めて見る幼い姉をじっと目に映している。
「にしてもさ〜、父さん。もっと他のやつあるでしょ」
「いやあ?すまん、すまん」
いがくり頭をぽりぽりと掻きながら、まるで片手間みたいにそう謝ってくるその男……
(……ははーん。そういう態度ね。良いわよ。今日は久々に相手をしてあげようじゃないの)
また小競り合いでも始めようか。そう思ったとき、湊がぽつりとこう言った。
「これが、ねえさん?」
「えっ?あ?ん?そうそう。可愛いでしょ?」
「……?ねえさんは、今もかわいいよ?」
「えっ?かっ、か…?」
目を逸らしたくなるほどの記憶ばかりだが、湊はあまりにもキラキラした目で、私をじっと見上げてきた。
(なんだ、これ?尊すぎるが?幸せすぎるが?)