たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
私は溢れんばかりの愛情と慈しみを込めて、膝の上にちょこんと乗った小さな体を、思いっきりギューっと抱きしめた。

「んーーっ!みなとーー!大好きだよーーっ」

隣では父さんが、よくやったでしょ、っ?と言わんばかりに、ウインクしながら親指を立ててアピールしてくる。

コロっと調子が変わった私も、そり立つ親指をこっそりと突き出した。

(父さん、ナイスっ!)

そのときだ。私たちのいつもとは少しだけ違う日常が、はっきりと変わり出したのは。

「これ、ぼくも出来るかな?」
(……えっ?)

「ぼくも、やる」
「やる、って……いうのはー、そのー、湊くん?」

真っ直ぐと前を見据えながら宣言したその一言は妙に力強かった。

(湊がこんなにもはっきりと、自分の意志を伝えてくれるなんて……)

「そうか!湊!やってみるか!」

父さんはとても乗り気なようで、すでにやる気に満ち溢れた湊の頭を褒めちぎるように、わしゃわしゃと撫で回す。

まあ意外ではない。私の時もああだったのだから。父さんは相変わらずでも、私はあの頃とはもう違う。

守りたい気持ちが強い日常ほど、変わり出してしまうことにワクワクよりも、恐怖の方が勝ってしまう。

私の身に起きた出来事は、私をそんな風に変えてしまった。

「そうだな……まずは、宇佐見に聞いてみっかな……」

そう言って父さんは甚平のポケットから、最近持ち始めた新型のスマートフォンを取り出し、慣れない手つきで声に出しながら、文字を打ち始める。

「宇佐見へ……息子に筋があるか、見てもらえないか、っと」

(これまた懐かしい名前だ……)

「宇佐見さん?まだ、連絡取ってるの?」
「ああ。飲み友だよ。飲、み、友!」

恐らく最近覚えた言葉なのだろう。何度もそう繰り返しながら、誇らしそうにウインクまでしてくる。

(なんだかんだ言っても、昔っから父さんは子供のことをちゃんと考えてくれてるんだよな。湊がこんなにやる気になってるのに、家族が応援してあげないでどうするんだって話よね……)

湊のためなら、どんな怖さもへっちゃらになる。本当にこの小さな身体は、不思議な力をくれる生き物だ。

また湊がどうしようもなく愛おしくなって、小さな身体を右へ左へ揺さぶりながら、これでもかというほどハグをした。

そうこうしているうちに、父さんのスマホから何かを知らせるように音が鳴る。

「おっ!早速返ってきたぞ!」
「えっ!なんだって?」

私もここまで来たら湊を応援する気持ちしかなくて、父さんと一緒に興奮気味にスマホを覗き込んだ。

「まずは、写真を見せなさい!だと」

(一見サバサバしてるけど、ちゃんと向き合ってくれる感じ。これぞ宇佐見さんだわ〜)

服はどうしようか、ポーズはどうしようかと、大の大人が揃いも揃って、うろうろと部屋中を動き回る。

そんななか、今日もこの家で唯一冷静なのは、最年少の湊だった。

「ねえさん。写真、撮ってほしい」

私たちを見上げる小さな身体は、父さんとお揃いの紺色の甚平を着て、正しい姿勢を一ミリ足りとも崩さずにじっと座っている。

私たちは、湊の底知れぬ可愛さを知っている。

父さんと目を合わせながら、密かに互いの意見を一致させた。

「えっ?湊、他にもかっこいい服、いっぱい持ってるじゃん!」
「そうだよ!ほら、父さんがこの前買ってやった、半被とか」

「父さんの趣味は、今関係ないから!」
「なにい?」

つい先ほどまで同じ志を抱いていた私たちは、こうしてまたしてもすぐに足並みを乱していくのであった……。

そんな騒がしい大人たちも、小さな身体がはっきりと決めた固い意志の前では、ただ黙ってついていくことしかできない。

「これが、いいんだ」
「ほ、本当に?」

「ぼくのことは、ぼくが一番分かってるから」
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