たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「……そ、そう!じゃあ、湊の可愛さを突きつけてやりましょう!ね?父さん」
「お、おう!そうだなっ!」

大きな羽織りに身を包んだ小さな身体は、きっちりと揃えた膝の上に手を結びつけて、背筋をピンと正しながら、くしゃりと満面の笑みを浮かべる。

その写真はしっかり者で大人より大人だけれど、よくよく見るとまだまだ無邪気な、「小濱湊」という人間の魅力を一番引き出したものだった。

あれから、オーケーサインのスタンプに続いて、事務所の移転場所と指定日時が、素っ気なくも速攻で送られてきた。

付き合いの長い私は、知っていた。宇佐見さん流の認めたぞ、というこれ以上ない合図だということを。

爽やかな風が揺らす、新緑の大きな一本木に見守られながら、湊の小さな手をギュッと握りしめ、私はあの長い石段をまた超えていこうとしている。

湊は自由に動き回れるようになった頃から、そばにあるものを思いっきり楽しんでくれる子だった。

だから、この遠く遠くまで伸びた石段の向こうを自分から見ようとすることもなく、最後に見たのは、私か父さんに抱きかかえられながらのことだったと思う。

「湊?辛くない?」
「うん。へーき」

そんな目新しい世界にあまり興味を示してこなかった湊が、今は自分の意志で一歩、また一歩と懸命に小さな足で大きな歩みを進める。

その後ろ姿に成長の嬉しさと、大人として情けないけれど、少しばかりの寂しさも感じた。

こんなにも湊を前のめりにさせる理由が何であるか、私は聞くこともできただろう。

でも、湊が自分から言ってこないのには、きっとそこには何か言いにくい、もしくは言いたくない理由があるはず。

あのときの、私みたいに……。今の私に出来るのは、そんな湊が初めて自分自身で選んだ道を、そばで見守ることくらいだ。

(きっと母さんも、こんな気持ちだったのかなあ……)

少しだけ思い出にふける私を、今日も前へと向かせるように、握りしめられた小さな指の力はグッと強くなる。

(いけない……また、ボーっとしちゃってた)

相変わらず日常を離れたこの世界は、公休日も重なって、止まることなく押し寄せてくる人々と、見上げるほど高い建物たちがひしめき合っている。

「湊?絶対、手離しちゃダメだからね?」
「ねえさん。もう、それ八回目」

さすがに寝巻き同然の甚平で、外の世界に出るのは如何なものかと、父さんと二人でああでもない、こうでもないとしているうちに、最終的には湊本人がサスペンダー付きのハーフパンツにすると決めた。

いくら大人が寄りかかってしまいそうなほど心が成熟した子でも、身体はまだまだ子供には変わりない。

大きな波に飲み込まれないように、その小さな身体から一瞬たりとも目が離せない。

もちろん今日も私の服装は、いつも通りの皺が消えない白シャツにブルーのデニム。キラキラとした世界に目を奪われる時間なんてものは、今の私にはもう関係のない話なのだから。

宇佐美さんの指示通り、雑多な空気がすっきりと抜けた住宅地の中に入ると、そこには周りの家々に馴染むように二階建てのユニットハウスが建っていた。

(……あれ?これは、どなたかのお宅とかではなく?……)

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