たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「ねえさん、ここ??」
「う、うん?そうみたい?」
目の前に広がる景色を信じきることができずに、ボーっとその建物を眺める。
湊はそんな私の手を強く引っ張るようにして、物怖じせずにトコトコと歩き始めた。
「ちょ、ちょ……湊……」
すると、まだ気持ちの準備ができないうちに、その建物の玄関扉が開く。
とびらの向こうから不思議そうに出てきたのは、皺一つ増えていない、記憶のままの宇佐見さんだった。
「鈴子?何やってんの。早く入りなさいよ」
「……あっ、どうも!」
私は十数年の空白を感じさせないくらい、気さくな挨拶をした。
学生時代、ほぼ毎週のように会っていた彼女は、背負うものが増えた私にとっても、数少ない気兼ねのいらない相手だ。
宇佐見さんは視界の外にある小さな身体に気づくと、あの頃、私にしてくれたみたいに低くしゃがみこむ。
大きな大人たちをじっと見上げていた湊も、自分と同じ高さになった宇佐見さんに目線を合わせた。
「小濱湊です」
「そう。あなたが、湊くんね。まあ、まずは入って」
その建物の中までも、まるで家族が帰ってくる場所のような温もりが広がっていた。
木目調のダイニングテーブルを囲むようにして橙色の椅子が並び、奥の方にはオフィスでは見かけないキッチンまで置いてある。
ところどころに見える絵本やぬいぐるみが、子供たちがわいわいと集まる景色まで、簡単に想像させた。
そして私たちが今、座っている白色のふんわりとしたソファの真ん前には、そんな部屋の雰囲気には似ても似つかない、近寄るなオーラをプンプンと醸し出した、白髪混じりのおじさんがいる。
くたびれたスーツを着たその人は,ローテーブルをはさんだもう一つのソファで、ずっと何やら考え込むように、腕組みをしながら俯いたままだ。
なんとも近寄りがたいというか、なぜか関わってはいけない!と身体が勝手に拒否するみたいに全身に寒気が走る。
宇佐見さんは、そんな私の身体を温めるように淹れたてのホットコーヒーと、湊用のオレンジジュースを持ってきてくれた。
「あっ!ありがとうございます」
でも、あえて言わなくても良かったその一言で、すべての温かみを帳消しにしてしまう。
「そういえば……鈴子も監督にかなりしごかれてたわねえ〜」
「……ぶっ……えっ?私?」
湊を数々の危険から守れた達成感と、何ごともなく目的地まで到着した安堵で、完全に気が抜けていた私は、口の中に含んだコーヒーを思いっきり吹き出した。
「そうよ!ほら、カレー美味しいね〜だっけ?あの日、一生分ってくらい言わされたんじゃないの?」
とっくの昔に自分の中から消し去っていた、忘れたくてたまらない記憶が、今になって嫌というくらい鮮明に蘇ってくる。
私はその元凶を、思いっきり指差した。
「あっ!おに!いや、違う、小仁監督!」
「鈴子。何度も言うが、それは全くもって誤魔化しになっていないからな」
小仁監督は、あの時と変わらない無愛想な言い方でこちらを見向きもしないけれど、今もツッコミだけはちゃんと律儀にやってくれる。
(……にしても、前にも増して愛想がない……ひとまず小仁監督はそっとしておくことにしよう)
その人を視界から一旦消して、代わりに宇佐見さんに全ての疑問をぶつけることにした。
「……でも、宇佐見さん。どうして、この人が?」
「ああー、たまたま一緒に飲んでてね。この子の写真見せたのよ」
「……へえ〜?」
(で、なぜ鬼監督までここに?)
不思議に思うことだらけだけれど、先ほどまで私を引っ張っていた小さな身体は、宙に浮いた足をしっかりと揃えて、礼儀正しく座っている。
しかも、目の前のおっかない顔に怖がるどころか、まるで自ら喧嘩を買って出るようにガン見している。
その熱い視線はあの鬼すらうろたえさせて、さっきから目をしきりにキョロキョロとさせているのが隠せていない。
(湊……それだけは、ねえさんにも真似できないわ……)
「う、うん?そうみたい?」
目の前に広がる景色を信じきることができずに、ボーっとその建物を眺める。
湊はそんな私の手を強く引っ張るようにして、物怖じせずにトコトコと歩き始めた。
「ちょ、ちょ……湊……」
すると、まだ気持ちの準備ができないうちに、その建物の玄関扉が開く。
とびらの向こうから不思議そうに出てきたのは、皺一つ増えていない、記憶のままの宇佐見さんだった。
「鈴子?何やってんの。早く入りなさいよ」
「……あっ、どうも!」
私は十数年の空白を感じさせないくらい、気さくな挨拶をした。
学生時代、ほぼ毎週のように会っていた彼女は、背負うものが増えた私にとっても、数少ない気兼ねのいらない相手だ。
宇佐見さんは視界の外にある小さな身体に気づくと、あの頃、私にしてくれたみたいに低くしゃがみこむ。
大きな大人たちをじっと見上げていた湊も、自分と同じ高さになった宇佐見さんに目線を合わせた。
「小濱湊です」
「そう。あなたが、湊くんね。まあ、まずは入って」
その建物の中までも、まるで家族が帰ってくる場所のような温もりが広がっていた。
木目調のダイニングテーブルを囲むようにして橙色の椅子が並び、奥の方にはオフィスでは見かけないキッチンまで置いてある。
ところどころに見える絵本やぬいぐるみが、子供たちがわいわいと集まる景色まで、簡単に想像させた。
そして私たちが今、座っている白色のふんわりとしたソファの真ん前には、そんな部屋の雰囲気には似ても似つかない、近寄るなオーラをプンプンと醸し出した、白髪混じりのおじさんがいる。
くたびれたスーツを着たその人は,ローテーブルをはさんだもう一つのソファで、ずっと何やら考え込むように、腕組みをしながら俯いたままだ。
なんとも近寄りがたいというか、なぜか関わってはいけない!と身体が勝手に拒否するみたいに全身に寒気が走る。
宇佐見さんは、そんな私の身体を温めるように淹れたてのホットコーヒーと、湊用のオレンジジュースを持ってきてくれた。
「あっ!ありがとうございます」
でも、あえて言わなくても良かったその一言で、すべての温かみを帳消しにしてしまう。
「そういえば……鈴子も監督にかなりしごかれてたわねえ〜」
「……ぶっ……えっ?私?」
湊を数々の危険から守れた達成感と、何ごともなく目的地まで到着した安堵で、完全に気が抜けていた私は、口の中に含んだコーヒーを思いっきり吹き出した。
「そうよ!ほら、カレー美味しいね〜だっけ?あの日、一生分ってくらい言わされたんじゃないの?」
とっくの昔に自分の中から消し去っていた、忘れたくてたまらない記憶が、今になって嫌というくらい鮮明に蘇ってくる。
私はその元凶を、思いっきり指差した。
「あっ!おに!いや、違う、小仁監督!」
「鈴子。何度も言うが、それは全くもって誤魔化しになっていないからな」
小仁監督は、あの時と変わらない無愛想な言い方でこちらを見向きもしないけれど、今もツッコミだけはちゃんと律儀にやってくれる。
(……にしても、前にも増して愛想がない……ひとまず小仁監督はそっとしておくことにしよう)
その人を視界から一旦消して、代わりに宇佐見さんに全ての疑問をぶつけることにした。
「……でも、宇佐見さん。どうして、この人が?」
「ああー、たまたま一緒に飲んでてね。この子の写真見せたのよ」
「……へえ〜?」
(で、なぜ鬼監督までここに?)
不思議に思うことだらけだけれど、先ほどまで私を引っ張っていた小さな身体は、宙に浮いた足をしっかりと揃えて、礼儀正しく座っている。
しかも、目の前のおっかない顔に怖がるどころか、まるで自ら喧嘩を買って出るようにガン見している。
その熱い視線はあの鬼すらうろたえさせて、さっきから目をしきりにキョロキョロとさせているのが隠せていない。
(湊……それだけは、ねえさんにも真似できないわ……)