たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
冷や汗が流れる血の気のひいたその顔色と、少ない言葉数からしても、もうとっくに身体が限界を迎えているのなんて明らかだ。

でも、拓真は私の肩を支えに自力で立ち上がると、無理やりその身体を動かすように、私たちを置きざりにしてひとり先へと進んでいってしまう。

人に助けてというのが苦手な人。いや、出来ない人だというのは昔からわかっていた。

頭から手拭いを荒っぽく取り、汗で濡れた黒い髪を一度にぐわっと掻き上げる。その後ろ姿は、ひっそりと泣いていたあのときよりも、ずっとずっと遠く感じた。

私にはもう触れる資格すらない、うんと広くなった背中をただ見守るように、おぼつかない足取りに合わせて、私たちはゆっくりゆっくりと時間をかけて歩いた。

(……大丈夫なわけないじゃん、こんな歩き方して。なんか前にも増して、強がるところ、ひどくなってない?……)

そんな私たちの姿がサイドミラーに映ると、根本マネージャーもこの非常事態に気付いたようで、車のドアさえ開けっぱなしにして、血相を変えながら慌てて拓真のそばにかけ寄る。

「柳生さん!またですか?」

「……悪いが、事務所へ戻ってくれないか」
「はいっ!急ぎます!」

引きずるように前へと動かしていた拓真の身体は、助手席に乗り込んだ途端、ついに力尽き果てたようだった。

(えっ……事務所って……それなら私たち、一緒に行かない方が良いよね?)

根本さんに預ければひと安心だし、こう声をかけて二人を見送ろうとした。

「あのっ!じゃあ、私たちは、これで!」

でも、根本さんは後部座席のドアを開けて、私たちも一緒に乗るよう勧めてくる。

「いえ!どのみち、目的地は同じですから、乗っちゃってください」
「……同じ?それは、一体どういう?」

「あれ?ご存知ないです?最近、柳生さんもうちに移籍していらしたんですよ」

(何何??何それ??どんな冗談??)

次から次へと発覚する真実に、私の頭はもうショートしそうなほど混乱し切っていた。

「……俺が、降りる」

すると拓真は弱り切った身体をまた無理やり動かしながら、車から降りる仕草まで見せつけてくる。

(ちょっ、ちょ……!それはない!その落とし所だけは、絶対にない!)

「いえ!乗ります!乗りますんで!」

この感じ、覚えている。今だって、話すのもしんどいくらいに憔悴し切っているはずなのに、周りに負担をかけたくまいと言葉では平気なフリをしてみせる。

「小濱さん、すみません。社長に電話かけてもらえたりって、できます?」
「もう全然。かけます、かけます」

私たちを乗せた車が動き出すと、根本さんからそう指示が飛んできて、今度こそポケットからスマホを取り出した。

そして、呼び出し音が鳴り出すと、耳に当てるより前に、あの豪快な声が聞こえてきた。まるで、そんな音じゃなく私の声を聞きなさい!と言わんばかりに。

「鈴子!鈴子!」
「……えっ……あっ、宇佐見さん?」

「ちょっと。ちゃんと挨拶はできたの?」
「いや、それが……会えはしたんですけど……柳生さんの具合が……」

「何?あの子、また倒れたの?」
「……はい」

「ほんと、あれほど……あっ!英佑呼ばないとだわ!鈴子、拓真にもそう伝えといて!」

こちらが心配になるほどの、ドタドタとした大きな物音を最後に、通話はいつの間にか終了していた。

(……えっ……ちょっ……私の意思は、いずこへ……)

背もたれに頭を預けた拓真のまぶたは、眠っているのか完全に閉じ切っている。

「あのー、柳生さん?柳生さん?」
「……なんだ」

「ああー、すみません……えーっと、英佑さん?もいらっしゃる?とのことです」
「……そうか」

いくら屈強な腕で顔を隠しているつもりでも、斜め後ろに座る私からは丸分かりだ。青白い顔色からはその異様さが手に取るように分かるし、本当に、見ているだけで痛々しい。

(……宇佐見さん、さっき、またって言ったよね?誰も病院に連れて行こうとしないし……ほんとに、このままで大丈夫なの?)

宇佐見さんは腕を組みながら軽い地団駄まで踏み、ひどくお怒りの様子で私たちを待っていた。

それからかれこれ数十分、拓真はソファーで横になりながら、また腕で顔を隠して、たんとお説教を受けている。

私と湊は、その一部始終を向かい合ったもう一つのソファの上で、否応なく見せつけられていた。

「拓真、あなた何度、同じこと繰り返すの?私、あれほど言ったわよね?次、倒れたら無理にでもマネージャーつけるわよ。って」

(マネージャー?そう言えば、こんなに有名なのに、なんで彼のそばにはいないんだろう?)

「だから、大したことないって……」

「ほんと?英佑」

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