たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
白衣姿の英佑さんは、湯水のように言葉が湧き出てくる宇佐見さんをまるで置物か何かだと思っているのか、せっせと診察を進めていた。

突然、宇佐見さんから鋭い牙を向けられても、冷静に事実だけを答えてみせる。

「いえ。嘘です」

「ほらー!!私たちの目は欺けても、医師の目は欺けないわよ!!」

ここに戻ってきたときに、宇佐見さんがこっそりと教えてくれたが、拓真と財前英佑(ざいぜんえいすけ)さんは、前の事務所でルームメイトだったそうだ。

プライバシー諸々の観点から、表立って病院にかかれない拓真のために、医師になった英佑さんが、こうして今も事務所や自宅まで出向いて、定期的に診てくれているらしい。

確かに、彼もまた一般社会では滅多に見かけないレベルの、イケメンだ。

二人ともお揃いの黒髪だが、英佑さんは、ふんわりとした前髪と、トローンとした目がまるで大型犬のよう。

一方、拓真は前髪のカーテンががらりと開かれ、一段とキリッとした気のする眉目や、日々の鍛錬で培われた隆起がたくましい、狼?いや熊?のよう。

世が世なれば、どちらが真のイケメンであるかと、狼煙が上がっていても、なんらおかしくはない。

ともかく、あの美青年が成長するとこんな大人の男性になるんだと、昔の私に言っても絶対ウソだーって揶揄われる。

(なーんてね……あはは、ははは)

同じ話が延々と続く学生時代にタイムスリップしたように、そんなくだらない空想に耽っていた。

しかし、害なんて一つもなさそうな、そのかかりつけ医が、いきなりとんでもないことを言い出す。

「柳生。お前、まだ、たたないんだろう?」

私は、最後の言葉が出し切られる前に、湊の耳に飛びついていた。

だって……だって……

「たっ、たた、た、たっ!?」

心の声も大きくなりすぎて、思わず外へと出てしまう。

「財前、子供の前だぞ……」

「……ああ、これは失敬」

何のことだか分からないまま世界から音が消え、英佑さんに頭まで下げられた湊は、ただつられるように礼を返す。

「だが、ここまで付き合ってもらった以上、彼女にも現状を知る権利はあるだろう」

とにかく拓真の身体に何が起きているのか、心配でならない。でも私が聞いたって、どうせ拓真は本当のことを、教えてくれはしない。

「……財前、言うなよ」

真実だけを知り尽くした英佑さんの言葉がすぐそこにあるっていうのに、私だって拓真の強がりにもう耳を貸すつもりは毛頭なかった。

湊の耳から外した手のひらを、どっしりと膝につくと、ただ深々と頭を下げる。

「教えてくださいっ!」

次に頭を上げると、机の上には先ほどまでなかった一枚の紙が、私に見せるように置かれていた。

「ここの数値を見てください」

スッと伸びてきた英佑さんの指を追いかける。

「……テ、テストステロン値?」

「ええ。簡単にいうと男性の精巣でつくられるホルモンなんですけどね。30代なら通常7.5は、あってほしいんです。なのに、これ……」

確かにそこに書かれていた数字は、明らかに正常値から、かけ離れたものだった。

「ええ、っと……なんと言いますか……」

英佑さんの声が、何か選び取るように、途端に辿々しくなる。私は目線を上げながら、次の言葉を待っていた。

しばらくすると、何か適した言葉を閃いたのか、声高らかにこうまとめる。

「そう。つまり、今のこいつは、そこらのご老人より、機能してないってことです」

「……ゴ、ゴ、ゴロゴロ」

(随分とまあ、はっきりとおっしゃる……)

あまりにも辛辣な言葉ばかりで、思わず声もコロコロと転がってしまうけれど、これが嘘偽りのない真実らしい。

「財前、お前……もっと、伝え方って、もんが……」

「恥ずかしいと思うのなら、睡眠、食事、ストレス。まずは己の管理をだな……」

「……はぁ。もう、その辺で良いだろう。俺は今、その子の"お姉さん"と、話がしたいんだ」

(………えっ?私)

私は助けを求めるべく、視線を宇佐見さんへと移した。

(宇佐見さん……どうか、どうか、私を見捨てないで……)

しかし当の宇佐見さんは、交わったはずの視線も、まるで無かったことのようにスーッとずらす。

(いま絶対、目合ったよね?ね?ね?)

「……そうね。ここから先は、鈴子にすべてお任せしましょう」

(……えっ!?何?私、見捨てられるの?)
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