たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
宇佐見さんは、私の腕を引きちぎるくらいの勢いで、強引に引っ張ってきた。

(えっ?なになに?宇佐見さん、腕抜けるて)

やけに強い指の圧は、振り解こうにも振り解けず、なぜか私は、二階へと連れ去られている。

拓真の前に一人残される湊が心配すぎて、その子が視界から消えても、身体はずっと後ろを振り返ったままだ。

「で、でも、湊が……」
「良いから。あの子たちには、あの子たちにしかわからない話があるのよ」

気持ちが晴れないまま私が連れて行かれたのは子役たちへの指導で使うレッスンルームだった。

でもそこには、子供の姿はなく、大きな大人の英佑さんが、一人でじっとあぐらをかいて待っていた。

私は記憶から消したい、でも変わりようのない醜態を掻き消すように、うめき声をあげながら、小さくうずくまった。

「あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙ーーー」
「……?どうしました?」

この世のことなら何でも知っていそうな英佑さんに、くじゃぐしゃの顔をさらしながら、藁をもすがる思いで泣きついた。

「いや……何で、言わなくて言いことまで、言っちゃうんでしょう」
「……それは、守りたいものがあるからではないですか」

「守りたい、もの?」
「ええ。もちろん、あいつにもあります」

(私にとって湊のような存在が、作品ってこと?)

英佑さん以上に、拓真の身体についてよく知っている人間はいない。だから気がかりでならない率直な不安を、真っ直ぐとぶつけてみた。

「一つ聞いても良いですか?……」
「何でしょう」

「彼は、柳生さんは、いつから、あんな状態なんですか」

英佑さんは何か遠くにある記憶の糸を手繰り寄せるように、蛍光灯の白々しい明かりだけを一点に見つめる。

「そうですねえ。若い頃から寝れない、寝れないとはよく言っていましたけど。体に異変が現れ出したのは、1年ほど前でしたかね」

「……一年」

そう私が小さく言葉を繰り返すと、見上げた顔は、こちらへと向けられた。

「寺沢昭二、知ってます?」

(……ああ。確か昔、美琴がものすごい形相で教えてくれたような……)

「ええ。お名前だけなら」
「そうですか。柳生には、それはもう多大な影響を与えた俳優でしてね。ところが、ある日突然、パタリと倒れられてしまいまして」

(そ、そんなことが……)

英佑さんはまた、過ぎ去った日に思いを馳せるように天を見上げる。

「訃報が入ったあと、あいつも死んでしまうじゃないかと、こちらも気が気じゃなくて……そうですか。あれから、もう一年ですか」

まるで自分ごとのように眉を下げながら、悲しげな表情を浮かべていると、見かねた英佑さんが、そこにあえて前向きな言葉を付け加える。

「初めて見たあなたは心配になるのも当然ですがね、あれでもかなり良くなった方ではあるんですよ」

「……じ、じゃあマネージャーさんがついてくれたら、もう少し負担も減るんじゃ?」

しかし、その指摘はまるっきり的外れだったようで、やれやれと言った感じで首をブルブルと左右に振られる。

「……?どうして?」
「まあ、一種のトラウマみたいなものですかね」

「トラウマ……」

そんな話し込む我々の前にヌッとあらわれたのは宇佐見さんだ。

「そうよ……!」
(っわ!びっくりした!やけに静かだと思ったら……)

どんな答えにくい質問にも冷静に答えてくれた英佑さんに対し、宇佐見さんはまた抑えていた怒りが湧き上がってくるみたいに、私たちを観客に見立てて、強大な鏡を背に、身振り手振りに恨みセリフを吐きまくった。

「あの女はね、甘い蜜をとことん吸い上げるために、仕事にかける思いを利用したのよ!最初は身体がどれだけ悲鳴を上げても、仕事のためならって這いつくばってやってたわ。でも、そのうち命より大事な仕事まで、お金にならないと言って、勝手に決め出したのよ!」

「……宇佐見さん。また血圧が上がります」

「何?英佑も、一つくらいガツンと言ってやったらどうなのよ」

「……まあ、そうですね。無理矢理ラブシーンをやらせて、業界内に妙な噂を立たせたのは、さすがに人の心がないと思います。あっ、別にたたせたとか言って、かけてるわけじゃないですよ?かけてないですからね?」

(ならば、なぜ繰り返す……てか、これ全部、私が聞いていい話?耳、塞がなくて平気?今からでも塞いどこうか?)

「……そ、そ、それで、ここに?」
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