たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「ええ。小仁監督が前々からオファーかけてくれていたのに、拓真はそれすら知らなくてね。とうとう我慢できなくなってしまったのよ。……っく……なんで、あの子ばかりこんな目に……」

まるで舞台のクライマックスのように目頭を抑える宇佐見さん。

「小濱さん!ハンカチ、ハンカチ!」

(……ハンカチ!?また、そんな急な……)

英佑さんから小声でこっそりとそう指示を出され、私は言われるがままポケットから取り出したハンカチを、宇佐見さんに手渡す。

「あら、鈴子。ありがとう……」

そして宇佐見の涙でびっしょびしょになったハンカチをまたポケットに戻そうとすると、突然どでかい声で名前を呼ばれた。

「鈴子!」

私はその声にお寺での修行の記憶が蘇り、手本のような返事をし、素早く正座をつくって、背筋までしゃんと伸ばした。

「はい、っ!」

宇佐見さんのそれまでとは違う改まった顔つきからは、その言葉の重さを感じた。

「この作品はね、拓真にとって特別なの。寺沢昭二の魂を受け継ぎ、レッテルを貼られた生まれも育ちもすべて認めて、武器にできる」

「……ぶ、武器ですか」

「そう。だから、あの子もああやって強がってるけどね。今は、二人を信じて待ちましょう」

すると本当に遠くから、湊と拓真の楽しそうな話し声が聞こえてくる。

その声に振り向くと、湊はニッコニコの表情で、拓真の腕の中に収まっていた。

(ほんとだ。ちゃんと打ち解けてる……)

「ねえさん。絶対とーさんより高いよね」

(うん。父さんに聞かせたら、卒倒するだろうけどね……)

それにしても何やら、先程から凄く熱い視線を感じる。

恐る恐るそちらを見ると、宇佐見さんがほら。だから言ったでしょ?と、得意げに何度もウインク繰り返していた。

(ああ、飲み友経由の流行ってわけね……)

私も愛想笑いを浮かべて、うなづきながら、そのウインクを泣く泣く受け取った。

「柳生、身体の方はもう平気なのか?」
「……ああ。悪かったな。急に呼び出して」

湊と拓真は無事?気持ちが通じ合ったみたいだけれど、私と拓真の間には深い溝があるままだ。
どこか他人行儀で、よそよそしい話し方になってしまう。

「すみません。抱っこまでしてもらって」
「いや、俺が頼んだんだ。今から慣れておいた方がいいだろう」

そんな拓真のさりげない一言も絶対逃さないと言わんばかりに、宇佐見さんはまた誰も追いつけない早さで、会話の主導権を奪いにかかった。

「そうね。どうかしら、あなたたち一緒に住んだら?」

「「……はい?」」

私と拓真は思わず声が揃い、びっくりして目を合わせるけれど、またすぐに居たたまれなくなって視線をそらす。

(いやいやいや!どうしてそうなるー??)

しかもなんと、先ほどまで比較的冷静な目で見ていてくれていたはずの英佑さんまで、おかしくなってしまったようだ。

「まあ、宇佐見さんの思いつきにしては、珍しく理にかなっていますね……」

(まさかの、英佑さんまで……)

「ちょっと、それはさすがに……」
「そうだ……大体……」

私たちは思い思いにぼやき始めるが、そんな反論はまるで認められないと言わんばかりに、私の肩には宇佐見さんの手が、湊を抱きかかえた拓真の肩には英佑さんの手が、ずっしりとのしかかってきた。

(っ、お、重い……)

二人は声を揃えて、こう言う。

「「それも全て……作品のためだよ」」

そして、また小競り合いを繰り広げながら、ゲストルームへとつながる階段を降りていく。

「ってか、英佑。さっきの何?にしては。って?どういう意味?」
「答えにくいので、深く聞かないでくれます?」
「なんで答えにくいのよ!」

(うわあ……なに、この決定事項ですって雰囲気は……)

私と拓真の苦い顔を、なぜか交互に見返す湊は、あんなに嬉しがっていた高い場所から、自ら降りると言い出した。

「降りてもいーい?」
「……ああ」

すると、誇らしげな顔で何やら合図するように、宇佐見さんのとはまた違う、愛らしいウインクを私に向けてくる。

(……ん?どうした?湊?)

そして、全くピンと来ていない私を残して、湊までも悠然と部屋から出て行ってしまう。

(えっ、あっ……湊、行かないでーー!!)

消えてしまった湊の背中を、往生際悪く見続けていたが、突然聞こえてきた拓真の笑い声が私の視線を奪った。

「あっははっ……」

(あれ?拓真、笑ってる?)
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