たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
こうして両親を無事説得?できた私は、母さんと手を繋ぎながら、百段近くある石階をのぼっている。
たった、それだけのこと。
だけれど、そこには容易くは超えられない、確かな違いがあった。この分け目を超えると、首が痛くなるほど見上げなきゃならない、小綺麗な高い建物ばかりが立ち並ぶ。
あんなに大きかった青々とした空も不思議と小さく、なんだか全てが作り物のような景色に思える。年に数回、家族でちょっとしたお出かけをするときくらいしか見ないから、余計にそう思うのだろう。
何度見ても、まるで初めてのように新しく感じる風景の中を、今日もまた新鮮な感動を感じながら、キョロキョロと落ち着かない面持ちで歩いていく。
でも、「ラヴィットプロダクション」のでかでかとした垂れ幕がかかっていたのは、背の高いガラス張りの建物たちに今にでも存在を消されてしまいそうな、全面コンクリートの低層ビルだった。
「母さん、ここ?」
「ええ、そうみたいね……」
((いや……騙された?))
一張羅のワンピースを着て、気合いを入れておしゃれをしてきた母さんと私。
口には絶対に出さないけれど同じことを考えながら、なんだか拍子抜けしたように、見上げることに疲れた首を、少しだけ横に傾ける。
するとグレーのバンを運転してきた宇佐見おばさんが、開けっぱなしのカーウィンドウから顔を出し、立ちすくむ私たちを笑顔で歓迎する。
「入って!入って!」
やけに響く足音とひんやりとした壁に、秋風が吹きつける建物の外よりも、ずっと寒く感じた。
鉄製の重そうなドアを何個か通り過ぎると、一番奥にある部屋の前で、宇佐見さんは古びた丸いドアノブを、ガチャガチャと音を鳴しながら回す。
そのドアの向こうには、暖炉の火が柔らかく灯り、この建物の雰囲気とは似ても似つかない、とても温かな空間が広がっていた。
足元にはペルシャ絨毯が、その上にはアンティーク調の真っ赤なソファや、おしゃれな木製の机が置かれ、天井からはおとぎの世界のようなシャンデリアが吊り下がる。それに、いくつもの西洋インテリアも並んでいた。
私は滅多に座ることのない高そうなソファに、少し身を縮こまらせながらも、母さんの隣でしっかりと受け答えをする。
「鈴子ちゃん、大きなカメラの前に立ったことはある?」
「えーっと、ないです!」
「じゃあ、私たちの腕の見せどころね!君たち、一肌脱いでちょうだいよ!」
「はーい!」
すると、そのがなりの効いた宇佐見おばさんの掛け声に応えるように、首からカメラを提げた女の人、スタンドライトを抱えた女の人、身体よりずっと大きなレフ板を手にした女の人が、隣の部屋と繋がるドアから次々にやってくる。
(……やっぱり、騙された?)
言われるままにポーズを取ってみせるが、どうも私がしたかったことではないような気がして、なんだかモヤモヤする。
妙に、心が落ち着かない。
(あれ……私、喋らないの?いつも拓真は呪文みたいなセリフ唱えてるよ?)
「ちょっと、ストップ!ストップ!」
またがなり声が聞こえると、鳴り続けていたシャッターを切る音も、やっと途絶れた。
そして、宇佐見おばさんは初めて会ったときみたいに、私と目を向き合わせながら、理解できる言葉で熱い気持ちを訴えてくる。
「鈴子!あなたは素晴らしいモデルよ!だから!もっと、自信を持って!」
「あのー…私、拓真みたいなの、したいんだけど……」
「……ああ……拓真は役者、あなたはモデル。違うように見えても、すべてに通ずるのが芸なのよ!」
宇佐見おばさんは意気揚々と、まるで降り注ぐ光を浴びるように高々と手を広げながら、天を仰いでいる。
一方、私の中で盛り上がっていた気持ちは、その真実を知ると一気に沈み込んだ。
(じゃあ、何?ほんとに騙されてたってこと!?)
たった、それだけのこと。
だけれど、そこには容易くは超えられない、確かな違いがあった。この分け目を超えると、首が痛くなるほど見上げなきゃならない、小綺麗な高い建物ばかりが立ち並ぶ。
あんなに大きかった青々とした空も不思議と小さく、なんだか全てが作り物のような景色に思える。年に数回、家族でちょっとしたお出かけをするときくらいしか見ないから、余計にそう思うのだろう。
何度見ても、まるで初めてのように新しく感じる風景の中を、今日もまた新鮮な感動を感じながら、キョロキョロと落ち着かない面持ちで歩いていく。
でも、「ラヴィットプロダクション」のでかでかとした垂れ幕がかかっていたのは、背の高いガラス張りの建物たちに今にでも存在を消されてしまいそうな、全面コンクリートの低層ビルだった。
「母さん、ここ?」
「ええ、そうみたいね……」
((いや……騙された?))
一張羅のワンピースを着て、気合いを入れておしゃれをしてきた母さんと私。
口には絶対に出さないけれど同じことを考えながら、なんだか拍子抜けしたように、見上げることに疲れた首を、少しだけ横に傾ける。
するとグレーのバンを運転してきた宇佐見おばさんが、開けっぱなしのカーウィンドウから顔を出し、立ちすくむ私たちを笑顔で歓迎する。
「入って!入って!」
やけに響く足音とひんやりとした壁に、秋風が吹きつける建物の外よりも、ずっと寒く感じた。
鉄製の重そうなドアを何個か通り過ぎると、一番奥にある部屋の前で、宇佐見さんは古びた丸いドアノブを、ガチャガチャと音を鳴しながら回す。
そのドアの向こうには、暖炉の火が柔らかく灯り、この建物の雰囲気とは似ても似つかない、とても温かな空間が広がっていた。
足元にはペルシャ絨毯が、その上にはアンティーク調の真っ赤なソファや、おしゃれな木製の机が置かれ、天井からはおとぎの世界のようなシャンデリアが吊り下がる。それに、いくつもの西洋インテリアも並んでいた。
私は滅多に座ることのない高そうなソファに、少し身を縮こまらせながらも、母さんの隣でしっかりと受け答えをする。
「鈴子ちゃん、大きなカメラの前に立ったことはある?」
「えーっと、ないです!」
「じゃあ、私たちの腕の見せどころね!君たち、一肌脱いでちょうだいよ!」
「はーい!」
すると、そのがなりの効いた宇佐見おばさんの掛け声に応えるように、首からカメラを提げた女の人、スタンドライトを抱えた女の人、身体よりずっと大きなレフ板を手にした女の人が、隣の部屋と繋がるドアから次々にやってくる。
(……やっぱり、騙された?)
言われるままにポーズを取ってみせるが、どうも私がしたかったことではないような気がして、なんだかモヤモヤする。
妙に、心が落ち着かない。
(あれ……私、喋らないの?いつも拓真は呪文みたいなセリフ唱えてるよ?)
「ちょっと、ストップ!ストップ!」
またがなり声が聞こえると、鳴り続けていたシャッターを切る音も、やっと途絶れた。
そして、宇佐見おばさんは初めて会ったときみたいに、私と目を向き合わせながら、理解できる言葉で熱い気持ちを訴えてくる。
「鈴子!あなたは素晴らしいモデルよ!だから!もっと、自信を持って!」
「あのー…私、拓真みたいなの、したいんだけど……」
「……ああ……拓真は役者、あなたはモデル。違うように見えても、すべてに通ずるのが芸なのよ!」
宇佐見おばさんは意気揚々と、まるで降り注ぐ光を浴びるように高々と手を広げながら、天を仰いでいる。
一方、私の中で盛り上がっていた気持ちは、その真実を知ると一気に沈み込んだ。
(じゃあ、何?ほんとに騙されてたってこと!?)